きっと消えない秋のせい
『おまえには、あの事故の真実を忘れてもらう』
「そんなの嫌だ!!」

そう言われた瞬間、居てもたってもいられなくなって、あたしは叫んだ。

「あたし、朔夜くんのこと、忘れたくない! せっかく、朔夜くんのことを思い出したのに、また忘れるなんて嫌だ!」
「……杏」

朔夜くんは目を見開いていた。
でも、あたしは感情を爆発させた影響で、はあはあと息切れをする。

「正直、あの事故の真実を知った時、すごくショックだった。でも、だからといって、全てをなかったことにしたくないもん!」

めいっぱい空気を吸い込んで。
それを吐き出すように、あたしは心の中で強く強く願った。

『お願い!! この想いが、死神さんに届きますように!!』
『その程度の力で、死神である私の意志を変えられると思っているのか!!』

バチッ。
だけど、あたしのお願いごとの力は、死神さんの力によって一蹴される。
やっぱり、あたしのお願いごとじゃ、死神さんの力に遠く及ばない。
でも……。

「理不尽な現実に負けない! 死神さんの力なんかに負けない! だって、あたしと考人と朔夜くんはいつだって、おしどり夫婦だから!!」

あたしは何度も言い聞かせた決心を口にした。
それは……胸の中に秘めていた本音。

「おしどり夫婦……」

朔夜くんは噛みしめるようにつぶやいた。

おしどり夫婦。

その中に、自分が含まれていることに驚きを隠せないのかもしれない。
あたしは笑顔で、くるりと朔夜くんの方を振り返った。
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