きっと消えない秋のせい
「杏ちゃん。わたし、杏ちゃんたちにまた、会えて嬉しいよ。たとえ、一時的だとしても、死神さんに素敵な奇跡をありがとうって伝えたい!」

結菜が力強く言う。
その姿はウサギのぬいぐるみなのに。
凛としていてかっこいい。

「結菜……」

結菜が、こんなにあたしたちのことを想ってくれている。
あたしも頑張らなくちゃ。
その思った時、ピンポーンと家のインターホンが鳴り響いた。

「あ、朔夜くんが――考人が来たみたい」

あたしは一階をかけ降りて玄関に向かう。

「……杏、お待たせ」
「考人」

玄関に立っていたのは朔夜くんだった。
二階に上がり、あたしの部屋へと直行する。

「こんにちは、天宮さん」
「深瀬くん、こんにちは。……えっと。この場合、結城くんって呼んだ方がいいのかな?」
「どっちでも大丈夫だよ。でも、それなら……」

結菜が不思議そうに首を傾げると、朔夜くんは少し考え込む。
そして、両手をぐっーと思いっきり伸ばした。

「はあー、杏、天宮。勉強会って、マジでめんどくせぇな。つーか、なんで宿題なんてあるんだよー!!」

咄嗟に朔夜くんの口から投げやりな言葉がぽろっと出てきて。

「考人はやっぱり、勉強が苦手みたい」
「深瀬くんらしいね」

あたしと結菜は声をそろえて苦笑した。

「考人、結菜、宿題してからあそぼー」
「うん。杏ちゃん、頑張ろう」

テーブルに教科書とノートを広げて早速、勉強会開始!
和気あいあいと盛り上がるのは、やる気満々のあたしと結菜。

「俺、無理……。なんで、朔夜の時の俺はこんなめんどくせぇこと、やっていたんだ……」

逆に朔夜くんはやる気ゼロ。
『考人の勉強嫌い』の気持ちに苛まれているみたい。
いつもなら、すらすらと問題を解いていくんだけど。
今日は宿題を前にして顔を突っ伏している。

「そういえば、朔夜くんは小学校に入学してからは、ほとんど病室で過ごしていたんだよね?」
「おう! そうなんだー!」

あたしがふと話題を振ると、朔夜くんは我が意を得たとばかりにがばっと顔を上げた。

「朔夜は亡くなるまでの間さ。小学校に通うことを夢見て、ずっと病室で勉強をしていたから頭がいいんだぜ!」

あたしは思わず、目をぱちくりさせる。
だって、考人はまるで自分のことを話すように言っていたから。

「あ……」

……って、違う、違う!!
朔夜くんだった!?
今の考人は考人でもあり、朔夜くんでもあるんだから。
朔夜くんのことを自分のことのように話すのは当たり前で。
わーん。何回考えても、こんがらがってきちゃう。

「そ、そうなんだね」

あたしはごまかすようにノートを見るけれど、内容が全然、頭に入ってこない。
結局、勉強会の間、あたしの頭の中は考人と朔夜くんのことでいっぱいだったんだ。
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