荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
 宮司が先に歩き、うさぎはその後ろについて歩く。
 明かりは宮司が持つ大きな提灯のみで、彼から離れてしまえばすぐに呑み込まれそうな闇が迫る。
 うさぎは痛めた足を気遣いながら歩いているせいで、歩みが遅い。

「うさぎ、どうした? 歩きが速いか?」
 宮司は何度も振り返っては労って歩みを合わせてくれる。

「すみません。こう言った衣装は着慣れないもので……」
「はは、何度も着慣れるまで花嫁衣装を纏っては困るぞ」

 場を和ませるように言ってくれる宮司が、うさぎにはありがたかった。
 この村でうさぎを一人の人間としてみて、優しくしてくれるのは宮司しかいなかったのだ。
 うさぎは、この好々爺の手引きで神の元へむかうだけでも幸せを感じていた。


『お前はそのために村に立ち寄った流れ巫女に金を払い、子を産ませたのだ』

 輿入れ先を初めて告げられたとき、そう父はうさぎに告げた。
 神がお住みになっている本宮を建て直す。
 その間、仮宮を造り一時的に神を移す。その際に神に『花嫁』という名の贄を捧げなくてはならないと父は言った。
『神に花嫁を差し出すのは、我が『槙山』家の大切なお役目なのだ』とも。

 宮司として神を奉っていた代から受け継いでいる役目。
 父は前の贄から数え、自分の代で贄を捧げなくてはならないと知っていたのだろう。
 だからこそ、可愛い娘を差し出すのは忍びない。

 ――だったら、出自のわからない、どこぞの女に、後悔しない娘を産ませればいい。

(もともと私は、今日の日のために産まれ育ったんだ)

 家族にも、屋敷の使用人たちにも蔑まれて生きてきた。
 けれど、今夜限りでそれが終わる。

(私が神様の贄となれば、次の建て替えまで村の平和が約束される。優しくしてくださった宮司様のためにも、この儀式をやり遂げなければ)

 うさぎは痛む足を懸命に前に出した。



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