荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
(もしかしたら、一夜のお情けのあとに食べられるのかしら?)

 この状況からしてそうに違いない。うさぎは布団の横に座って待つことにした。
 それにしても布団が敷かれてあったのは想定外だった。
 覚悟はしていたが、その覚悟は食べられるほうの覚悟だ。

(まさか……まさか……ま、交わるの? か、神様と……?)

 想像しようとしても経験のないうさぎの想像は乏しいもので、頭を捻っても何も思いつかない。
 考えすぎて目がぐるぐるしてきたし、汗も掻いてきた。

「ど、どうしよう……神様と……本当に?」
 ぎゅう、と前で揃えた手を握りしめ、俯く。
 急にやってきた事態の緊張で、足の痛みなんかどこかへいってしまった。

(落ち着いて。落ち着くのよ、もしかしたら化け物と呼ばれた私を慰めにしないで、そのまま食べてしまうかも)

 そうよ、だから落ち着こう――深呼吸をしたときだった。

 影が障子に映る。
 うさぎはそれを見て、鳥肌がたった。

 ――人の影ではない。

 映る影は全身ボサボサの毛で覆われていて、天井に頭がつくのでは? と思われるほど大きい。

「――っ!?」

 思わず叫びそうになったのをうさぎは口をおさえ、辛うじて止める。
 そうだ、祀っている神様は、村で『物の怪神』と恐れつつも敬っている『荒神・荒日佐彦』だ。

 それでもうさぎは神様というのは、人の姿をとっているものかと思っていた。
 それは思い違いだったと、うさぎは知らず震えが止まらなくなる。

 スッと障子が開く。うさぎは震えながらも畳に手を添え、頭を下げた。
「……顔をあげろ」
 くぐもった低い声で、うさぎに命じてくる。

 うさぎは、キュッと口を引き結ぶとそろそろと顔を上げた。
 今度は声が出なかった。
 目の前にそびえるように立つ神は障子越しから見た通り、茶色の固そうな毛で全身が覆われており、顔らしき場所から二つの光が爛々とうさぎを見下ろしているからだ。

 よろしくお願いします、と言うべきか?
 それとも、神が何か言うまで待った方がいいのか?
 でも震えて、喉も縮まって声を出せそうもない。
 きっと血の気も引いているだろう。

 怯えていることに気づかれたら神様は――
(きっと傷つくわ……)

 容姿で恐れてはいけない。自分がずっとそういう目に遭ってきたじゃない。
(私だって人らしくない姿で『化け物』と言われてきたわ)

 落ち着こう、うさぎは再び深呼吸をしようとしたときだった。

「ふざけるなーーー!! お前らああああ!」
「ひっ」

 いきなり怒鳴られた。
 地を裂くようなその罵声に、極限まで緊張していたうさぎは、あっという間に意識を手放したのだった。







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