荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
「……私でよろしければ……精一杯お仕えします……」

 座礼から顔を上げ、幼子ほどの大きさになっている荒日佐彦と視線を合わせる。
 手を差し出され、おずおずと自分の手を合わせる。
 一瞬チクリとしたが、針山のような毛があっという間に柔らかな毛並みとなった。

「俺の全身を纏うこの毛はこの村一帯にある『災』と呼ばれる『瘴気』なのだ。俺は他に『厄』『禍』もこの身に受け、それを纏う。でないと、村一帯を襲い農作物だけでなく山々も枯らせてしまうし、病魔も襲ってくる」
「荒日佐彦様お一人でそれを……村を守ってくださっていたのですね。ありがとうございます」
「ああ、しかしな。神だとて限界がある。こう瘴気に当てられたら俺だって正気でいられなくなる。もしそうなったら逆に地滑りなど土砂災害や、川の氾濫、飢饉などの災害を起こしてしまう可能性だってある」
「まあ……そんなことに」

 村も槙山家も、今までずっと平和でこられたのは荒神が悪いものを全てその身に受けてくれていたからなのかと、うさぎは納得し頷く。

「そうならないように支えるのが、妻の役目なのだ。私の顔に触れてくれないか?」
「は、はい……」

 うさぎはそろそろと、彼の顔と思われる部分に触れる。
 すると、そこでもあっという間に柔らかな毛並みに変化した――が、それだけで終わらなかった。

 手のひらが触れている箇所からパラパラと毛が取れ、畳の上に落ちていく。

「荒日佐彦様の毛が……!?」

 毛は落ちた先から塵のように消えていく。
 そして後から後から荒日佐彦の体から毛が落ちていっては、畳の上で消えていった。
 
 うさぎが驚いたのはそれだけではなかった。
 毛がなくなった箇所は人と同じ肌が見えた。うさぎはそこが頬の部分だと知る。

「すまないが、顔全体に触れてほしい」

 荒日佐彦に乞われ、うさぎは見えた頬から輪郭を辿るように顔を撫でていく。
 パラパラと畳に落ち、消えていく硬い毛と変化していた瘴気全てなくなり、荒日佐彦の容貌が現れたとき、うさぎは恥ずかしくなり手を引っ込めた。

 腰にまで届く金にも銀にも見える不思議な色合いの髪と、美しい瓜実の顔。
 スッと通る鼻梁。
 意志の強そうそうな唇。
 そして瑠璃色の瞳。

 荒日佐彦がいつの間にか青年の姿になっていたこともあり、うさぎは慌てて下がる。

「どうした? まだ俺が怖いか? ……ああ、まだ体は毛むくじゃらだしな」
「いいえ……その、怖いわけではなく……驚いたんです」

「? 確かに触れただけで毛が抜けてしまうのは驚くだろう。しかし、それがお前の力だ、うさぎ」
「……私の、力?」




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