荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
 荒日佐彦はそうだ、と首肯した。

「槙山家はもともと、霊力を持つ一族だ。その血と先祖から受け継いだ荒神との盟約により、花嫁になる娘は生まれながらにして『浄化』の力を持っている。『百年に一度、槙山家から神に花嫁を差し出す』というのは『この地を守る神の妻となり、夫の身に受けた瘴気や不浄を祓う役目を担う』ということなのだ」

「そうだったのですね。……では、本妻の娘の美月も、この力を持っているということでしょうか?」
「……以前は持っていただろうよ。だが、今はないようだ。数年前に失っているな」
 荒日佐彦は顎を掴み考え込みながら話す。

「どうしてでしょう……?」
 悩んでいるうさぎに荒日佐彦は「気にすることはない」と微笑んでくる。

 その微笑みの輝きに、うさぎは知らず頬を赤くした。
「お前は俺のところに来た時点で、もう神の花嫁なのだ。たとえ血が違くとも(・・・・・・・・)その姿もその血(・・・・・・・)も、誇りに思うがいい」

「荒日佐彦様……」

 血が違う――どういう意味なのか。尋ねようとしたが荒日佐彦の手が自分の手を取り、優しく引き寄せたその温もりに気をとられ、霧散してしまった。

 人の肌とぬくもりに、恋を知った少女のように胸がときめいたのだ。

(ううん、その通りよ。私、初めて恋を知ったんだわ)

『お前がいい』と、はっきりと自分を欲してくれた。白い髪と赤い目の『化け物』を。
 握られた手が大きくて温かくて、そして優しい。

「名前が『うさぎ』ではややこしいな。神使共と同じでは、名前を呼んだらまた悪戯にあいつらがやってきそうだ」

「うさぎ」と呼んで「はーい」とピョンピョン跳ねながら、わらわらとやってくる神使たちの姿が容易に想像できてしまい、思わず笑ってしまう。

「やっと笑ってくれた」

 荒日佐彦がそう言いながら、うさぎの髪を一房取る。
 愛しそうに髪に触れてきた彼の手は、ちっとも怖くなかった。
 こんな風に髪を掴まれたことは、まったくなかったから。

「そうだな……今後、『白い』『花』と書いて『きよか』と名乗るといい」

「『白花』……綺麗な名前……本当によろしいのでしょうか?」
「お前にぴったりな名前だ。白花。白く清らかな、俺の美しい一輪の花」
「白花、白花……嬉しい……嬉しいです」

 目から涙が溢れて止まらなくなってしまう。

「泣くな」
「申し訳ありません。嬉しくて……」
「さっきも泣いた。白花は存外泣き虫なのだな」
「違います……荒日佐彦様がお優しいから、私……」

 荒日佐彦の手が白花の両の頬を包み込む。近くで目線が合いこれから始まる儀式に白花の胸が高鳴る。

「お前の全てで俺を俺らしくいさせてくれ」

 荒日佐彦の囁きに、甘い口づけに、うさぎは酔いしれる。

 目の前にいる見目麗しい美神が恐れられる荒々しい神だと、到底思えない。
 自分の頬を撫でる手は自分を愛しいと訴えているような、そんな触れ方。
 蒼とも青ともいえる瞳に紫の色がかかる。
 それがちょっとした光の加減でキラキラとして、まるで万華鏡を覗いているように思える。

 ――こんなに麗しい神が、私を妻として抱こうとしている。

 背中が粟立つ。
『出来損ないのあんたには『物の怪』と呼ばれている神がお似合いよね』

 突然、脳裏に美月の言葉が浮かんだ。
『その目も髪も気持ち悪くて食欲をなくすの、この化け物!』

 ――私は

『化け物』




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