荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
(こんな『化け物』の私が、美しい荒神様に抱かれて妻になるなんて……!)

 人としての『色』もなく生まれて、女性らしい凹凸もなく、痩せて肉もない。
 こんな出来損ないの体を抱いて、荒日佐彦は満足するのだろうか?

(ううん……抱いてきっとガッカリされるわ……それに、神様が化け物を抱くだなんて……いけない)

「お待ちください……!」
 荒日佐彦の腕の中から振り切るように逃げる。

「どうした? 怖いか?」
「いいえ、そうではなくて……私のような骨と皮しかないような女を抱いても……それに『化け物』と呼ばれていた私は、やはり神である荒日佐彦様に相応しくないと思うのです……」

 一瞬にして空気が張り詰める。
 美しい荒日佐彦の顔が、怒りに歪む。
 怒りだけでなく、彼の纏う空気というのか。それが周囲を歪ませていた。
 物が歪み、揺れ、それに耐えきれない物は折れた。

「『化け物』だと? 白花のことを『化け物』だと呼ぶ者がいるのだな?」
 うさぎは「言ってはいけないことを口に出してしまった」と額が畳に付くほど頭を下げる。

「余計なことを話しました! お、お許しください……! 私は平気ですから、どうか村人たちに罰を与えないでください!」

 神の花嫁として相応しくないからと、自分を卑下した結果、村人たちに罰があたるようなことになったら――。

(私はなんていうことを……!)
 愚かな自分が情けなくて涙が零れてくる。

「軽々しく自分の話をしてしまい、甘えてしまいました!」
「今、話したことは真実であろう?」

 口に、言葉にしたらきっと彼は神の力を使い、罰を与えるだろう。
 村人も屋敷に仕える者たちも、家族も、自分の容姿を気味悪がり、蔑んでは悪口(あっこう)に満ちた言葉を楽しげに自分に向けた。

 だからと言って自分は、それをどうにかしたいと思うことはなかった。
 それをどう彼に伝えようか、頭を巡らしていた。

 ――いや、ただ目の前で怒りを纏う神が怖くて声が出なかった。

「正直に答えよ」という荒日佐彦の命じる声に、うさぎは浅く頷く。

(言わなくては……!)
 肯定したことによって、彼は花嫁としてやってきた自分のために村に何かしら罰を下す。
 荒神の性質を持つ荒日佐彦神は、当然のごとく己の力を村や家族に示すだろう。

「お願いです! どうか村に罰を与えないでください! 私は平気です!」
「……なぜ、平気だと言うのだ?」

 荒日佐彦の手が、またうさぎの足に触れる。

「ここの怪我は人為的にされたものだとわかった。お前はいつもこのような目に遭っていた。やけに体が細いのだって碌に飯を食わせてもらわなかったからだろう。自然災害によるもの、金銭的に余裕がなくなど、理由があってそのような体になったのであれば、それは納得ができよう。だが、ただお前を蔑み、弄り、『お前より自分はマシだ』と優越感にひたりたいだけで傷つけたのだ。白花よ、お前はそれでいいのか? 己を傷つけた者に対して刃を向けなくてよいのか?」

「いいえ、いいえ。いいのです」
「白花」

「私が受けてきた痛みに、私の代わりにこうして憤ってくださってありがたく思います。けれど、本当に私、傷付いていないんです。ただ『当たり前』だと思うだけで……」

「『当たり前』ではない白花」






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