荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
 荒日佐彦の手が、白花の頭を何度も撫でる。
 その手が至極丁寧で優しくて、温かい。
 自分を労わってくれているのだと感じる。

「それは慣れてしまっただけだ。己自身、これ以上傷付かぬよう感情を閉じただけだ。哀しい思いも悔しさも憤ることも白花は諦めて閉じたのだ」
「そうなのかもしれません……けれど、他の人が傷つくのは見たくありません。……それがどんなに痛いことなのかわかるから……なら、私が痛い方がいい。耐えた方がいいんです」

 髪を撫でる手が、するりと頬に落ちてくる。
 頬を擦るように指が動き、唇に触れた。
 人と変わらない、肌の感触に瞼を閉じる。
 怖くない。ただ気持ちがいい。
 先ほど纏っていた彼の怒りも殺意も消えて、うさぎを撫でる手は労わりと愛しさしかない。

「白花は、優しすぎる。それだからこそ、厳しい生活の中でそのような『気』を持てたのだな」
「私の『気』ですか……?」
「元々持つ力のせいかもしれないが、白花は自分が思うよりも遥かに高貴で、また力強い……ますます惚れた」
「荒日佐彦様」

 目の前にいる美しい姿の男神に抗える術など、自分は持っていない。
 自分のような女でいいのだろうか?

 彼の、自分を見つめる眼差しを信じたい。
 ただ、この痩せた体が恥ずかしいだけ。

「わ、私の体は、その瘦せっぽちで魅力のない体で……」
「それで、先ほどから俺を拒絶しているのか?」

 カッと顔が熱くなる。

「お、お許しください……っ、その、荒日佐彦様がこんな私を受け入れてくださろうとしていることに、感謝しておりますが……こんな貧相な体ではご満足いただけないだろうと……」
 再び額を畳に擦りつける姿に、荒日佐彦は軽快に笑った。

「俺は女子(おなご)の体つきなどに問わぬ。神が好むのは相手の内なる美しさだ――だが」

 面を上げ、とうさぎに命じ素直に従う。
 指で顎を擦られて、口が触れ合いそうなほどに荒日佐彦の顔が近づく。

 このように近くで男性を見たことがないうさぎには、目のやりどころがない。

 恥ずかしさに視線を逸らしていたら、
「では、しばらくの間はお前に手は出さん。白花が己の体に羞恥がなくなるまで待とう」
と提案してきた。

「荒日佐彦様……」
驚いて思わず彼の顔を見つめる。

「なに、俺も白花もこれから長い時を生きる。別に焦らずともいい。共に住んで、互いのことをよく知ってからでも構わないだろう」

 結局、自分は神に我慢させてしまうのかと、うさぎは恥じる。

 自分の生まれや容姿が恥ずかしくて、みっともなくて、拒絶した結果、この美しい男神を我慢させるのだから。
 傲慢じゃないか? と思いながらも自分の全てを見た荒日佐彦に嫌われるのが怖い。

(そうしたらもう、自分の居場所はどこにもない……)

「申し訳ございません」

 それでも――彼の優しさに、宮司以外から受けた初めての労りに、うさぎはすがるしかなかった。






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