荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
三食きちんと食事を頂けて、肌触りのよい布団で横になれて、仕立てのよい衣装を纏って、髪も丁寧に梳いて綺麗な髪飾りを挿してもらって。

「なにもしなくていい」と言われても、今まで朝から晩まで身を粉にして働いて、ようやく仕事が終わったら倒れるように眠っていた日々と違いすぎて落ち着かない。

「簡単な仕事でいいから何かやらせてほしい」と頼み込んで、ようやく住まう場所の手入れをやらせてもらえるようになった。

 そんなに暇ならと、アカリが絵巻物や本に、また塗り絵なども持ってきてくれたが白花は字が読めない。
 生まれて赤子の頃から厄介者だった自分は碌々、教育を受けさせてもらっていなかったから。

 正直に話すと荒日佐彦が、
「では、読み書きを学ぶことから始めようか」
 と提案してくれた。

 その日から荒日佐彦の手が空いている時間に、白花に読み書きを教えてくれている。
 閨の時間は肌を重ねる代わり、彼が今まで自分が見聞きしてきたことを白花に教えてくれた。
 夜の静寂の中、荒日佐彦の威厳があるのに落ち着いた深みのある低い声が、白花の耳をくすぐり、また、知らなかった世界を創造させてくれる。

 村の狭い世界しか知らない白花なのに、彼が話してくれる世界は、目の前にその光景が広がっているかのように容易く想像できた。
 きっとそれは荒日佐彦が、沢山の言葉を知り、情景の表現が上手いからなのだろう。
 白花の脳裏には荒日佐彦が見てきた数々の光景が広がり、声は胸に響き、呼応するように鳴る。
 そして白花も知らず、沢山の言葉を覚えた。

 二つ並べていた布団も、数日経つと一つの布団に二人で入り、話し込んではいつの間にか彼の腕に抱かれて朝を迎えるのだ。
 そうした二週間だった。

 いつものように境内の散策をし、屋敷に戻る。

 白花は縁側を背にし、景色を眺めた。
 白花と荒日佐彦が住まいとしている場所は、奥まったところにある。
 大きな神社ならまずは拝殿。
 次にお供え物を並べる弊殿、最後に神が住まうとされる本殿がある。

 今は仮宮なのであるのは、荒日佐彦と白花の住む本殿のみだ。
 本来の辻結神社は拝殿と弊殿、本殿を一続きに建てている。

 けれど――ここは、人が住むのとなんの変わりない造りだ。
 自分と荒日佐彦が住む場所は日本庭園のある重厚な和式の屋敷で、縁側もある。
 一見武家屋敷のように見えるし、寺小屋のようにも見える。

 荒日佐彦がいうには、神社の本殿は玄関のようなものらしい。
 入ると奥行きが広く、何部屋も畳部屋が繋がっている。
 常識では考えられない広さだ。
 さすがにそんなにたくさん部屋を使わないので、本殿に近い部屋を利用している。





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