荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
 庭はいつでも花が満開で、今の時期の花が花弁を広げ堂々と咲き誇っている。
 芍薬をはじめ薔薇にサツキ、撫子、宿根草のオダマキ、小さな真珠を付けているように見える鈴蘭。
 この花が咲くと田植えの合図だといわれている谷空木。

「この庭はいつ見ても花盛りね」

 花々の美しさにほぅ、と息を吐き魅せられている白花にアカリは、
「ここは、荒日佐彦様のお住まいでありますもの。神のお住まいは総じて一年花盛りですよ。これからは白花様の好きなお花を仰ってくだされば、一年ずっと愛でることができます」
 と、自慢げに言った。

「そうなの? じゃあ、秋や冬の花も季節関係なく見られるの?」
「そうでございますよ。白花様のお好きなお花はなんでしょう? 荒日佐彦様が『白花の好きな花を植えてくれ』って申されましたし」

「さあさあ、何がいいですか?」と、ウキウキした様子で迫るアカリに白花は頭を捻る。

「……花はどれも好きで、何がいいと言われても……」
「でも、すごく心に惹かれる花はありますでしょ?」
「野に咲く小さな花も可憐でいいし、庭に咲く手入れの行き届いた花も綺麗だし、木に咲く花もつい手を伸ばしたくなるほど美しいわ」

 それでも「自分の好きな花を植える」と言ってくれた荒日佐彦とアカリの願いを叶えたい。
 白花は、「うんうん」言いながら一生懸命に考える。
 あっ、と思いついた花を白花はモジモジしながら小さな声で答えた。

「あ、あの……カタクリ」
「カタクリの花でございますね。他にはございませんか?」
「竹……」
「竹」
「それと蕗の薹とか、蜜柑や柿とか栗とか……」
「蕗の薹、蜜柑、栗……確かに花は咲きますね」
「そ、その、カタクリはお料理に使えるし、竹は筍が沢山生えてきて、私もご相伴にあずかれた美味しい食材だし、蕗の薹もそうですし、蜜柑や栗はその、めったに食べられなくて憧れの食材で……」
「なんだか、花の話から食材の話になっておりませんか?」

 アカリに指摘されて、真っ赤になる白花。
 その様子を見て笑いながら近付いてきたのは、荒日佐彦だった。

「お帰りなさいませ」

 白花もアカリも主人の帰りに頭を下げる。
 荒日佐彦はこの地域を護る神だ。毎日見回りに出向き、不浄なモノや『瘴気』人に害を成す『厄』や『疫』などを見つけたらそれを取り込んでくる。

 今日は出掛けたときと変わらない姿で白花はホッとした。





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