荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
「アカリ、植えてやれ。そうだな……余分な部屋を消してその部分に果物の成る木や竹を植えようではないか」
「いいんですか?」

 白花が尋ねる。
 確かに使っていない部屋は沢山ある。

「使う部屋はもう大体わかったしな。どのくらい部屋を造ったいいのかわからず、心の赴くままに増やしたまでだ。俺の神力で造ったのだから俺の中に戻すまでのこと」

 そう言いながら荒日佐彦は手をかざし左右に揺らす。
 すると、部屋に霧がかかり晴れたあとには更地になっていた。

「一瞬で……」
 口に手を当てポカンとしてしまった白花の肩を、荒日佐彦は愉快そうに抱き寄せる。

「兎たちに苗木を持ってこさせよう。手が空いていたら俺も手伝うつもりだ」
「荒日佐彦様のお手を煩わせることなんてできません!」
「何を言う」

 だかれた肩を引き寄せられ、彼の顔が間近になり白花は顔を熱くする。

「婿が愛しい花嫁のために、何かしたいと思うのは当然のことだろう?」
「荒日佐彦様……」

 荒日佐彦はこの二週間、こうやって自分と密着したがる。

『こうして触れるだけでも、外界で取り込んだや穢れや瘴気など、よくないものを白花の発している気が浄化してくれるのだ』
 と。
 優しく、丁寧に、至極の宝石のように抱き締めてくれるのだ。

 瑠璃色の瞳が自分を覗く。時々キラキラと瞬く星のような光が生まれては消えている。
 とても不思議な色合いで。
 星空を眺めているようなそんな錯覚に陥る。
 こうやって荒日佐彦に触れられることも、ようやく慣れてきた。
 それどころか――心地よくて、時間の許す限り、もっとこうしていたいとさえ思ってしまう。

 反面、本当に自分でいいのかと恐れも相変わらず心の中に巣くっていた。

「白花? どうした? そんなに俺の顔に見惚れるか?」
「――っ!? す、すみません!」

 ジッと見つめながら考えに耽ってしまって慌てて離れるが、荒日佐彦は手を握ってきた。

「白花、この環境に慣れてきたか?」
「は、はい。……まだ驚くことの方が多いですけれど。アカリさんや兎さんたちがとても親切で……」
「おや? 俺は?」
「も、もちろん、荒日佐彦様もです!」
「俺のことを忘れていたか?」
「とんでもない! 忘れるなどしません! ……ただ、その荒日佐彦様は親切という意味とちょっと違うのかな、と思ってしまって」

「? それはどういう意味だ?」
「その、荒日佐彦様は『夫』として私に接してくれているので……」
「うん、まあそうだな」

 白花の応えに荒日佐彦は口元に笑みを浮かべる。

「私も『妻』としての心構えをしなくてはいけないと……。夫婦は労りあうのが当たり前と思うので、その……自分のような者でも荒日佐彦様の妻として頑張って行きたいと度々思っているのです」
「そうか――しかし、白花」

 荒日佐彦が白花と向き合うように立つと、彼女の華奢な肩を優しく撫でる。

「『自分のような者でも』などと言うのではないよ。白花は、誰にも負けない美しい心を持っている。神の俺でさえも誰にも魅せず、こうしてずっと抱き締めて自分の腕の中に閉じ込めておきたいほどに輝きを放っている。俺は白花を妻に出来たことを心から喜んでいるのだ」
「荒日佐彦様……」

 彼は、嘘偽りのない言葉を自分に投げかけてくれる。
 そうして自信を取り戻してくれる。

 自分の中にある、いじけた自分が顔を上げて『愛している』と囁く夫に全てを差し出せる日は――きっとくる。






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