荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
「それは荒日佐彦様にも言えることです。荒日佐彦様は内面の私に気付き、知ろうとしてくださった。真の夫婦になるのをこうして待ってくださっている。荒日佐彦様こそまさしく輝く神です」
「そう手放しで褒められるとこそばゆいぞ。神としてはまだまだ未熟でよく怒るから『荒神』として務めるようにと天照大神から命じられた俺だ。」

 痒そうに首を掻く荒日佐彦様を見て、白花は顔を綻ばせる。

「そんなに怒るのですか? 確かに初っ端から怒鳴られましたけれど」
「いや、すまない。あれはまずかった。癇性で諭されては反省するのに、なかなか治らん。難しいものだ」
「あれ以来、荒日佐彦様が怒ったところを見たことがありません。そんなに怒りん坊には思えません」
「……怒りん坊。子供だな、俺は」

 苦笑いを見せる荒日佐彦様が可愛く思えて、白花も笑みを溢す。
 二人、顔を合わせ笑い合っていると、いずこから兎たちがやってきた。

「荒日佐彦さまはおこりんぼう」
「おこりんぼうは荒日佐彦さま」
「荒神さまはおこりんぼう」
「おっこりんぼっ」

 楽しそうに跳んだり跳ねたり、後ろ足で人のように拍子をつけながら白花と荒日佐彦の周りを踊り始めた。

「あら、まあ……」
 可愛らしさに白花はホッコリしたが、荒日佐彦はそうではなかったらしい。

「……お前たち、また俺をからかいに来たのか!」
 兎たちに怒鳴りつける。

「お前たちは神の使いでありながら、ちっとも神を尊敬の念をもってはおらぬでないか!」
 兎たちを捕まえようとするも、ピョンと跳ねてスルリと交わし、四方に散らばっていく。

「おこった」
「荒神さまがおこった」
「おもしろーい」

(面白がられている)

 全く怖がらない兎たちと、本気で捕まえようとしている荒日佐彦を呆然と眺めていたら、アカリが「やれやれ」と兎たちに声をかけた。

「お前たち、奥様が庭に植える苗木や花の種をご所望じゃ。ひとつ頼まれておくれ」
「はーい」
 わらわらとアカリの前に集まる。

(神使である白兎が、屋敷にこんなにいたの?)
 目で追うだけでも三十匹は揃っている。もこもことした体のせいで綿帽子みたいな光景に長い耳がピコピコ動いて――。

(か、可愛い……)
 兎に埋もれたい、と自分を見失いそうになってしまう。

「欲しい苗木は『蜜柑』『甘夏』『桃』『栗』『柿』『竹』に『蕗』に『カタクリ』です」
「桃は意富加牟豆美命(おおかむづみのみこと)さまから苗をもらったらいい?」
「ん、それがよかろう。鬼やらいにもよいですからね。他のも、よーく吟味して持ってくるのですよ」
「はーい」

 一斉に返事をすると、また四方に散らばってしまった。





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