荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
(恥ずかしい……私ったら!)

 逃げる白花の腕を掴む者がいた。荒日佐彦だ。
 白花を止め、宥めるように自分の方に体を向かせた。

「なぜ逃げる?」
「それは……」

 問いかけてくる声は至極優しい。
 そして、何かを期待しているようにも聞き取れる。

「私は……荒日佐彦様のお気に召すようなお言葉を、かけることができましょうか?」
「別に俺の気に入るような言葉を考えなくてよい。お前はお前の言葉で素直な言葉で俺に言ってくれ」
「……は、恥ずかしくなって……」

 何が恥ずかしいのか。荒日佐彦は尋ねるに決まっている。

「何が恥ずかしいのだ?」
 やはり聞いてきて、白花は自分の醜い心が恥ずかしいのだととても言えない。

「その……わ、私は……自分の心の醜さを知られてしまうのが……」
「ん?」と荒日佐彦は、瑠璃色の目をぱちくりさせたなが首を傾げる。
「白花の心が醜いとな? なぜそう思ったのだ?」

(やはり言わなくては駄目なのね)

 今はまだ恥ずかしい、で済むけれど、話したら――蔑みの目で自分を見つめるのだろうか?

「……そんなの、いや」
 つい声にしてしまった。

「何が嫌なのだ?」
「言えません……」

 はぐらかしたり、誤魔化したりするのが苦手な白花は口をつぐみ、下を向く。
 ああ、どうかそれ以上、聞かないでと願うも、神である荒日佐彦は叶えてはくれない。

「言えない、とな。恥ずかしくて言えぬとなると……わかった!」
 そう、ぽんと手のひらを拳で叩いた。

「白花は恥ずかしがり屋だ。きっと瘴気を取り除いたあとの俺の体を思い出して、頬を染めておるのだろう?」
「――ち、違います!」

 見当違いだとはっきり否定したが、そのときの彼の見事な肢体を思い出してしまい、白花は更に顔を真っ赤にしてしまった。

「ほら、今、俺の体を思い出したであろう?」
「荒日佐彦様がそんなことを仰るから、思い出してしまったのです!」

 ムキになってしまう。そんな白花を荒日佐彦は笑いながら自分の腕の中におさめた。

「……夫の体を見てどうだ?」
 囁かれるように尋ねられる。

 彼の逞しい腕に抱き締められて、居心地はいいものの、まだ胸の鼓動は強いのに、囁く声にくらりときてしまう。
 体がフワフワとしている状態で、そんなことを尋ねられてまともに答えることなんて出来ない。

 まごまごしていたら、
「俺の体は男らしくないか?」
 と少し寂しそうに言ってきた。




< 30 / 76 >

この作品をシェア

pagetop