荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
◆ 幸せな生活・母と会う
そうして早一ヶ月が経った。
白花は日課となった掃き掃除と花々の管理をアカリと済ますと、剪定ばさみを所望する。
「お部屋がなんとなく寂しいから、花を飾りたいの」
広げた庭には、季節など関係なしに彩り豊かに花が咲き乱れている。
百花繚乱の光景はいつ見ても素晴らしいけれど、その分屋敷内が寂しく感じられたのだ。
「そうですねぇ。お持ちいたしますので、ここでお待ちくださいまし」
アカリが取りに行っている間、白花は縁側を前に景色を眺めた。
白花は瞼を閉じ、鳥のさえずりを聞く。
様々な花の香りに魅了される。
桃源郷というのは、こういう光景の中にいることをいうのだろうか? と考え、ふっと笑う。
「いやね。ここは人のいる世界じゃなかったわ」
ひとりごちる。
(幸せだわ……)
この空間の中で、自分は愛されて、みな優しくしてくれる。
贄として覚悟して来たのにそれは間違いであったことに驚いて、そして花嫁を所望していたのだと知って。
ここでは「うさぎ」ではなく「白花」で、自分を受け入れてくれている。
受け入れてくれていると感じると今まで怯えて碌に話せなかったのに、不思議と今度はたくさんお喋りをしたくなった。
こんなによく話せるなんて、自分でも知らなかった。
(それに……)
荒日佐彦が自分の拙くてとりとめのない話を、楽しそうに聞いてくれる。
一緒に読んだ物語の感想や、今日習った文字のこと。
自分が塗った絵や書道など見せると、嬉しそうに頷きながら見つめてくれる。
彼の瑠璃色の瞳が自分を見つめ、愛しい宝玉のように触れられると、どうにかなってしまいたくなる。
白花は荒日佐彦の腕の力強さを思い出して、トクトクと胸を鳴らす。
「こんなところにいたのか、白花」
「――っ!? 荒日佐彦様」
後ろから抱きしめられ、白花は驚いて顔を後ろに向ける。
すぐ近くに彼の逞しい首があって、唇が触れそうになり、慌てて前に向き直した。
「? どうした?」
「い、いえ。なんでも……」
きゅう、と包むように抱きしめられ、白花は頬を染めた。
それを知ってか知らずか荒日佐彦は、楽しそうに話しかけてくる。
「白花はいつも初々しいな。まだ俺にこうされるのは慣れぬか?」
「す、すみません……。い、いつか慣れるかと……」
「よいよい。少しずつ慣れていくといい。何もかも初めて戸惑うばかりであろう?」
「ありがとうございます。一刻も早く慣れるよう努めて参ります」
「だから少しずつでよいと言っているであろう?」
あはははと笑いながら、荒日佐彦は腕を白花の腰に回す。
「ここで何をしていたのだ?」
「あ、はい。部屋に花を飾ろうかと……。今アカリさんに、剪定ばさみを取りにいってもらっているところです」
「なんだ、まだ『さん』付けをしているのか?『アカリ』でいいんだぞ?」
「でもまだ慣れなくて……」
「そうなんですよ、『アカリ』と呼んでくださいと申しているんですけれど」
アカリが戻ってきて、白花に剪定ばさみを渡す。
「ごめんなさい」
「いえ、いずれは『アカリ』と呼んでくださいましね。その方がわたしも嬉しいんです」
ニコニコしながら白花に話しかけるアカリに白花は、本当にありがたいなと思う。
「そうか。……実は今から一緒に来て欲しい場所があるのだが」
「今から……ですか?」
白花は小首を傾げる。
とは言うものの、ここ一ヶ月この空間から出たことがない。
荒日佐彦が連れて行ってくれるという場所はどこなのか楽しみだ。
白花は日課となった掃き掃除と花々の管理をアカリと済ますと、剪定ばさみを所望する。
「お部屋がなんとなく寂しいから、花を飾りたいの」
広げた庭には、季節など関係なしに彩り豊かに花が咲き乱れている。
百花繚乱の光景はいつ見ても素晴らしいけれど、その分屋敷内が寂しく感じられたのだ。
「そうですねぇ。お持ちいたしますので、ここでお待ちくださいまし」
アカリが取りに行っている間、白花は縁側を前に景色を眺めた。
白花は瞼を閉じ、鳥のさえずりを聞く。
様々な花の香りに魅了される。
桃源郷というのは、こういう光景の中にいることをいうのだろうか? と考え、ふっと笑う。
「いやね。ここは人のいる世界じゃなかったわ」
ひとりごちる。
(幸せだわ……)
この空間の中で、自分は愛されて、みな優しくしてくれる。
贄として覚悟して来たのにそれは間違いであったことに驚いて、そして花嫁を所望していたのだと知って。
ここでは「うさぎ」ではなく「白花」で、自分を受け入れてくれている。
受け入れてくれていると感じると今まで怯えて碌に話せなかったのに、不思議と今度はたくさんお喋りをしたくなった。
こんなによく話せるなんて、自分でも知らなかった。
(それに……)
荒日佐彦が自分の拙くてとりとめのない話を、楽しそうに聞いてくれる。
一緒に読んだ物語の感想や、今日習った文字のこと。
自分が塗った絵や書道など見せると、嬉しそうに頷きながら見つめてくれる。
彼の瑠璃色の瞳が自分を見つめ、愛しい宝玉のように触れられると、どうにかなってしまいたくなる。
白花は荒日佐彦の腕の力強さを思い出して、トクトクと胸を鳴らす。
「こんなところにいたのか、白花」
「――っ!? 荒日佐彦様」
後ろから抱きしめられ、白花は驚いて顔を後ろに向ける。
すぐ近くに彼の逞しい首があって、唇が触れそうになり、慌てて前に向き直した。
「? どうした?」
「い、いえ。なんでも……」
きゅう、と包むように抱きしめられ、白花は頬を染めた。
それを知ってか知らずか荒日佐彦は、楽しそうに話しかけてくる。
「白花はいつも初々しいな。まだ俺にこうされるのは慣れぬか?」
「す、すみません……。い、いつか慣れるかと……」
「よいよい。少しずつ慣れていくといい。何もかも初めて戸惑うばかりであろう?」
「ありがとうございます。一刻も早く慣れるよう努めて参ります」
「だから少しずつでよいと言っているであろう?」
あはははと笑いながら、荒日佐彦は腕を白花の腰に回す。
「ここで何をしていたのだ?」
「あ、はい。部屋に花を飾ろうかと……。今アカリさんに、剪定ばさみを取りにいってもらっているところです」
「なんだ、まだ『さん』付けをしているのか?『アカリ』でいいんだぞ?」
「でもまだ慣れなくて……」
「そうなんですよ、『アカリ』と呼んでくださいと申しているんですけれど」
アカリが戻ってきて、白花に剪定ばさみを渡す。
「ごめんなさい」
「いえ、いずれは『アカリ』と呼んでくださいましね。その方がわたしも嬉しいんです」
ニコニコしながら白花に話しかけるアカリに白花は、本当にありがたいなと思う。
「そうか。……実は今から一緒に来て欲しい場所があるのだが」
「今から……ですか?」
白花は小首を傾げる。
とは言うものの、ここ一ヶ月この空間から出たことがない。
荒日佐彦が連れて行ってくれるという場所はどこなのか楽しみだ。