荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
「まあ、出来損ないのあんたには『物の怪』と呼ばれている神がお似合いよね。せいぜい『物の怪神』の花嫁として尽くすといいわ。――あ、でも喰われちゃうかもね。だって見た目、どう見たって『物の怪神』の好物の『うさぎ』だもんねぇ。けど、『うさぎ』ってあんたの容姿そのまんま。顔は人を表すって本当よね。人らしくなくて『化け物』だわ」

 あはは、と楽しそうに笑う美月の声に母親がやってきた。

 母親――うさぎにとっては義理の母は倒れ込んでいるうさぎを見下ろすが、声をかけることも起こすことも、いや声さえもかけることなく目を逸らし、愛しいという眼差しで愛娘の美月に声をかける。

「美月、こんなところで油を売ってるんじゃありませんよ。人力車を待たせているのですから」
「車じゃないの?」
「広い道のところで車を待たせているそうですよ。さあ、行きましょう。慶悟様を待たせてはいけませんから。今日は結納なのですからね」
「ええ、慶悟様は私を見て褒めてくださるかしら?」
「当たり前ですよ。こんな美しい娘は今まで見たことありません。きっと惚れ直しますよ」

 美月は嬉しそうに頬を染め「ふふ」と笑い、母親もにこやかなかんばせのまま部屋を出て行こうとした際、振り向きうさぎを見下ろした。

「やっと厄介払いができて清々するわ。流れ巫女の子をここまで面倒をみてやった恩を、無駄にしないでちょうだいね」

 そう吐き出すように呟いた義理の母の顔には、歪んだ笑みが浮かんでいた。

 うさぎは黙っているしかなかった。
< 4 / 76 >

この作品をシェア

pagetop