荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
 ――確かにそうかも知れん。

 世代とともに先祖が持っていたと言われる霊力が失われていって、自分の代では曖昧な干渉でしかわからない。
 だからこそ祖父の代から権宮司という役職に降りて、代わり霊力があるという宮司を雇ったのだ。

 美月も幼い頃は何かが視えていたようだが、成長してお洒落や異性に興味を持つようになってからは、超自然現象を否定するようになった。
 勇に関しては伝統行事として見ているだけだが、神社そのものを否定していない。

 おそらく権宮司を降りることに「跡継ぎとして余計な仕事が減った」と反対もしないだろう。ただ――引っかかる。
 百年に一度、贄を差し出す行事になんの疑いもなかったが、実際に自分の代で行われたとき、違和感があった。

 『贄』なのか?と。

 それは神が『贄』を欲しがるという違和感なのか。
 それとも『贄』という言葉でよいのかという違和感なのか。
 この違和感の正体に悩まされつつ、神社を敬い奉っていた。

 ――もう、いいかもしれんな。

 神の声が聞こえなくなって幾世代か。
 いや、もともと聞こえなかったのかもしれない。
 先祖が裕福になりたくて、聞こえたような気になって神社を建てたのかも知れない。

 もともと、槙山家の努力と実力でここまでのし上がってきたのだろう。
 そうだとしたらもう、散々神社に奉公してきた。
 離れる、いい機会なのかもしれない。

 ――何せ、不出来な娘でも神のせいで消えたのだから。

 そう、それも不思議だ。
 仮宮の鳥居をくぐった途端、あの娘は消えたと宮司は話していた。

(もしかしたら宮司が娘を逃がしたのか?)
 と、思いついたものの首を横に振る。

 あの男はバカ正直者だ。生きる中心は神に仕えることと本気で考えているし、何より、荒神の声を聞くことができる。
 しかし、一度浮かんだ疑惑はそう簡単に消えることはない。

「……勇まで権宮司をやらせるわけにいかんしな。いずれこの屋敷は親戚に任せて我々は、帝都に住まいを移すつもりでいたからちょうどいい機会かもしれん」
「まあ……そうでしたのね」
「お父さま」

 美月も、美月の母も血色がよくなる。

「だが、神を本宮に移し終わるまでは責務を全うせねばならん。それまで放棄すれば槙山家の沽券にかかわるからな」
「私がいただいた物は回収してくれれば、あとはお父さまのお仕事だし文句は言わないわ」
「宮司に変わり他のを献上するよう伝えよう」
 そう言うと父はさっそくと神社に向かった。






< 40 / 76 >

この作品をシェア

pagetop