荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
権宮司の言葉に宮司である爺は言葉を失った。
「献上品を取り下げろ、ですと?」
「そうだ」
もう決まったことだと言うように、胸を反らし尊大に告げてきた権宮司で槙山家の当主に宮司は説くように話す。
「この献上品は主祭神様が仮宮から本宮に移る際に身支度を調えていただくための物ですよ? これは辻結神社が始まって以来、遷宮の度に行っていた催しでございます。それは長く宮司を努めていた槙山家の代々のご当主が決めたこと。なにゆえ今、このときに変えるのですか?」
「今だからだ。考えても見ろ。今は文明が発達して近代化してきている。もう神頼みだのなんだのという時代ではない。神に繁栄や平和を願う時代ではないのだ。己の力で切り開く時代がきているのだ」
「……己の力で切り開く未来、というのは賛成しますが。だからといって神を蔑ろにするのは違うと思いますが」
「ついでに、権宮司を今回の遷宮で降りるぞ」
「なんですと? ご先祖が奉った神社を捨てるというのですか?」
「捨てるとは言っておらん。これからも村の神社として援助はしていく。娘の嫁入りを機会に帝都に引っ越そうと考えているから、なかなか戻って来なくなるだろう?それを考えれば宮司であるあんたが全権を持っていた方がよかろう」
好々爺の面の宮司が困惑した顔になる。
「もっと早く相談してほしかった……いつ頃、帝都へお移りに?」
「なに、まだ先の話だ。年内までには帝都に居を構えたいと思っているがな」
「左様ですか。……しかし年寄りの私に全て任せると言われても……」
宮司は戸惑っている。権宮司の自分より年上の宮司だ。おそらくこの責務もあと数年だと思っていたのだろう。
なのに、一番奉らなくてはならない槙山家が全てを任せると言い出したのだから。
「勇様にお願いできませんかね?」
「駄目だ。勇には槙山家に家督を継ぐべき役割が多くある。神社ごときに時間を割くわけにはいかん」
「神社ごときとは……! 槙山家が奉った神ですぞ?蔑ろになさるつもりか?」
本音をぽろりと口に出してしまい、勇蔵は誤魔化すように声を荒げた。
「……とにかく! 今回の献上物は引き下げる! 宮司であるお前が準備するんだ、いいな!」
踵を返し去ろうとする勇蔵を宮司は慌てて引き止める。
「お待ちを! 献上した品を返せとは、それこと神を愚弄する行為ではありませんか!?」
「うるさい……! 宮司、嘘つきの貴様こそ、神を愚弄しているではないか!」
「どういう意味です!?」
「知っているのだぞ? 貴様、うさぎが贄になって憐れと思い、途中で逃がしただろう? 『鳥居をくぐった途端に姿を消した』だの偽りを申して! 神隠しを上手く利用しおったのは知っているんだ!」
「それは真のことでございます!」
「今の時代に、そのような戯れ言が通じると思っているのか!」
「――!?」
思いっきり押され、宮司はその場に倒れてしまった。
「この槙山家と神を誑かした罪を、献上品を揃えることで許してやろうというのだ! 感謝すればこそ、貴様に文句を言われる筋合いなどない!」
そう言い捨てると、宮司に玉砂利を蹴りかけて去って行った。
老体を思い切り押され、地に伏した宮司はよろよろと立ち上がり、仮宮にあるご神体の元へ出向く。
そこに奉納しておいた献上品は全て持って行かれていた。
「……ああ、なんということを」
巫女や出仕、権禰宜がよろめいた宮司を支える。
「宮司様……いったいどうすれば……」
「……仕方ない。私の資産でどうにかまかない、取り繕う……しかし、子孫が欲にとらわれてこうも神を蔑ろにしたら……」
――うさぎ、お前は大丈夫なのか?
「献上品を取り下げろ、ですと?」
「そうだ」
もう決まったことだと言うように、胸を反らし尊大に告げてきた権宮司で槙山家の当主に宮司は説くように話す。
「この献上品は主祭神様が仮宮から本宮に移る際に身支度を調えていただくための物ですよ? これは辻結神社が始まって以来、遷宮の度に行っていた催しでございます。それは長く宮司を努めていた槙山家の代々のご当主が決めたこと。なにゆえ今、このときに変えるのですか?」
「今だからだ。考えても見ろ。今は文明が発達して近代化してきている。もう神頼みだのなんだのという時代ではない。神に繁栄や平和を願う時代ではないのだ。己の力で切り開く時代がきているのだ」
「……己の力で切り開く未来、というのは賛成しますが。だからといって神を蔑ろにするのは違うと思いますが」
「ついでに、権宮司を今回の遷宮で降りるぞ」
「なんですと? ご先祖が奉った神社を捨てるというのですか?」
「捨てるとは言っておらん。これからも村の神社として援助はしていく。娘の嫁入りを機会に帝都に引っ越そうと考えているから、なかなか戻って来なくなるだろう?それを考えれば宮司であるあんたが全権を持っていた方がよかろう」
好々爺の面の宮司が困惑した顔になる。
「もっと早く相談してほしかった……いつ頃、帝都へお移りに?」
「なに、まだ先の話だ。年内までには帝都に居を構えたいと思っているがな」
「左様ですか。……しかし年寄りの私に全て任せると言われても……」
宮司は戸惑っている。権宮司の自分より年上の宮司だ。おそらくこの責務もあと数年だと思っていたのだろう。
なのに、一番奉らなくてはならない槙山家が全てを任せると言い出したのだから。
「勇様にお願いできませんかね?」
「駄目だ。勇には槙山家に家督を継ぐべき役割が多くある。神社ごときに時間を割くわけにはいかん」
「神社ごときとは……! 槙山家が奉った神ですぞ?蔑ろになさるつもりか?」
本音をぽろりと口に出してしまい、勇蔵は誤魔化すように声を荒げた。
「……とにかく! 今回の献上物は引き下げる! 宮司であるお前が準備するんだ、いいな!」
踵を返し去ろうとする勇蔵を宮司は慌てて引き止める。
「お待ちを! 献上した品を返せとは、それこと神を愚弄する行為ではありませんか!?」
「うるさい……! 宮司、嘘つきの貴様こそ、神を愚弄しているではないか!」
「どういう意味です!?」
「知っているのだぞ? 貴様、うさぎが贄になって憐れと思い、途中で逃がしただろう? 『鳥居をくぐった途端に姿を消した』だの偽りを申して! 神隠しを上手く利用しおったのは知っているんだ!」
「それは真のことでございます!」
「今の時代に、そのような戯れ言が通じると思っているのか!」
「――!?」
思いっきり押され、宮司はその場に倒れてしまった。
「この槙山家と神を誑かした罪を、献上品を揃えることで許してやろうというのだ! 感謝すればこそ、貴様に文句を言われる筋合いなどない!」
そう言い捨てると、宮司に玉砂利を蹴りかけて去って行った。
老体を思い切り押され、地に伏した宮司はよろよろと立ち上がり、仮宮にあるご神体の元へ出向く。
そこに奉納しておいた献上品は全て持って行かれていた。
「……ああ、なんということを」
巫女や出仕、権禰宜がよろめいた宮司を支える。
「宮司様……いったいどうすれば……」
「……仕方ない。私の資産でどうにかまかない、取り繕う……しかし、子孫が欲にとらわれてこうも神を蔑ろにしたら……」
――うさぎ、お前は大丈夫なのか?