荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
「あれぇ、おかしなこと」

 アカリが素っ頓狂な声を上げながら首を傾げる。
 
 そろそろ本宮が完成するという内示を受け、『身支度を調えるためにお使いください』と納められた品々が消えたのだ。
 人の目から見たら『消える』物ではない。
 神は触れてその『気』を手に入れる。
 形になった『気』を神饌として口にしたり、衣装をこしらえたりする。

 人間側に残った食物などは「神のご加護」が宿るとされ、それを食べたりあつかったりすることで恩恵を受けるとされている。
 だから、納めた後に人が持って行ってもその場で食べても気にしない。

 しかし――今回は神側が手に取る前に取り上げられてしまったのだ。

 納めてすぐに持って行かれた。
 他の神の仕業か? と思ったが、そうではないらしい。

「しかし、あの宮司がケチ臭いことをするはずもない」

 ふむ、とアカリは神使である兎を何匹か呼び出した。

「事の詳細を探っておいで」
「はい」と兎たちは、ピョンピョンと華麗に飛んで姿を消した。

 ――それから一時もしないうちに帰ってきた兎たちに、アカリは待ちかねた様子で尋ねる。

「宮司爺、今納める品、頼んでる」
「頼んでる。ちょっと時間、かかりそう」
「左様か。……しかし、ちょっと前に納めたはずの品はどうなった?」
あれ(・・)、槙山家のごうつく女が持ってる」
「ごうつく……妻か、もう一人の娘か。どっちだ?」
「娘」
「『これは鷹司家からの結納品だから駄目』って」
「『私が嫁入り道具に使うから、うさぎに使わせない』って」
「……なんと、一旦神饌にだせば加護がつくというに、人というのは、いや、あの娘はとんでもないごうつくばりじゃ」

 はぁ、と呆れて溜め息を吐くアカリだったが仕方ない。

「宮司の爺様が頼んでいるのであれば、数日後にまた納めるであろう。……しかし、罰当たりな娘じゃ。あれが花嫁にならなくてほんによかった。あの娘は家の運気を下げることしかしない」
「ほんと、ほんと」
「縁を結んだ鷹司家も憐れじゃ……」

 アカリは悟ったように兎らに話すと、背筋を正す。

「荒日佐彦様に、もうしばらくお待ちいただくように申し上げに行かねば。あとは頼みましたよ」
「はーい」とぴょんぴょん跳ねて返事をする兎たちに見送られながらアカリは、仮宮の奥へ入っていった。





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