荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる

◆ 幸せな生活 衣装を調える

「ほう、これは華やかだ。まるで花の園にいるようだな」

 反物が足の踏み場がないくらいに、部屋いっぱいに広げられている。
 青地に赤地、金に銀、白、紫等々花や鳥、鈴に蝶、絣やまだら、雲や波の表現した柄に太陽や月を模倣した柄。山の風景や、絵巻物柄などもある。
 そして、簪の材料になる鼈甲や翡翠に珊瑚に真珠なども箱から出され存在感を見せつけていた。

 「驚きました。こんな品をいただいてよろしいのでしょうか?」
 白花はそろそろと反物に触れ、複雑な面持ちで荒日佐彦に尋ねる。

「よいよい。村の皆と宮司の心遣いだ。これで遠慮なく着物を仕立てるがいい」
 そう言いながら荒日佐彦は白花の隣に陣を取り、彼女の肩を引き寄せる。

「本宮に入る際の衣装は、白地に金糸の梅模様がいいか。それとも……こっちの象牙色の竜胆色がいいか。辻が花が描かれて絞りがある。……金地も華やかでいい。悩むな」
「どうせなら、いま流行のものも取り入れましょうよ。ヘアスタイルとか着方とかも。あっ、なんていうんでしたっけ? そうそう『モダンガールふぁっしょん』とかいうのもお仕立てしましょう!」

「もだ……?」
 聞き慣れない言葉に、荒日佐彦と白花は互いに顔を見合わせる。

「洋装ですよっ。正式な催しには難しいかもですが、普段着とかお二人で人間界にお忍びにお出かけになるときとか絶対に必要ですよ! 『モボ・モガ』とかいうらしいです」

「アカリ……よく知ってるのね」
「そりゃあ、世間の流行とか情勢とか確認しておかないと! 何せ荒神様はそういった世情に疎い……もとい気にしない方が多いんです。だから神使がしっかりしないと」
「けれど、洋装だと反物では仕上げるの、難しいのではないかしら?」

 白花の疑問に、アカリは鼻息を荒くしながら胸を張る。
「とにかく和装を先にこしらえて、残った反物を売るんです。それで洋装用の生地を購入しますよ。それに反物だって使い方によっては洋装を仕立てられると思います! 他の神社の神使と交渉して物々交換で手に入るご衣装や素材もありますし。わたしにお任せください!」

「まあ、他の神社の神使たちとも交流をするの?」
 白花は目を丸くして驚く。

「そうでございますよ。そうすることによって余っている物や不要になった物などを再利用するのです。お品は皆いい物ですからね、処分などもったいないです」
「そうね。使わなかった物をずっと閉まっておくのはもったいないわ。他の神社の神様が利用してくださればこんな嬉しいことはないわ」

 うふふ、と白花とアカリは笑い合う。

(それにしても、アカリはすごいわ。様々な方々と交流してるのね)

 白花はまたアカリにそう感心する。





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