荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
 アカリは神社会での知覚や感情、思考の伝達を惜しみもなく出して他の神社の神使たちと交流しているのだ。
 白花にとってアカリはもう、いなくてはならない大切な存在になっていた。

 ――荒日佐彦様の存在も……。

 肩に触れる荒日佐彦の大きな手の温もりから、言葉にならない波動が優しく伝わってくる。
 その波動は優しいだけではない。
 自分を『愛おしい』という彼の感情までも流れてきていて、白花は自分が愛されているということを体感できた。
 無条件で自分の全てを愛してくれる。
 それの、なんて幸せなことなのか。

 白花は生まれて初めて愛される喜びを経験していた。
 荒日佐彦に愛されて寄り添っていける。
 今までの自分が癒やされ、そして少しずつ自分を肯定して自信へと繋がっていく。
 自分は彼とこれから長い時を生きていくことに、何の躊躇いもない。

「そうそう、それにですね。神様にもお気に入りの服装というものがございまして、普段お召しにならないようなご衣装と交換できるときもあるんです。十二単とか大陸から渡ってきた唐服を元にしたものとか」
「白花が着たらさぞかし映えよう。想像して今から楽しみになってきた」

 アカリの話に、荒日佐彦が笑顔で本当に楽しそうに言うのを見て、白花は申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「……そのような華やかなご衣装なんて、私に似合うでしょうか……? それに、その、お恥ずかしながら十二単とか唐服などとか……どんなものなのか、想像がつかなくて」

 自分はなんて物知らずなのか。白花は恥ずかしくなって俯く。
 ここに来てからは違うが、物心ついた頃から使用人と同じように朝から晩まで働いて、本を読んだり、読み書きの勉強をしたりなんてさせてもらえなかった。
 着ている着物も小さくなると頭を下げていらない布をもらって何度も継ぎ足して、それでも丈が足りなくて道を歩くとよく馬鹿にされた。

(……そういえば宮司様がよく、生地をくださったなぁ)

 父と会うときには「槙山家にいる者なのだから、きちんとした身なりにしてあげなさい」と話してくれるようで、そのときは渋々美月のお下がりが回ってきた。
 美月に突き飛ばされたり、わざわざ汚したり切ったりして渡されることもしばしばだったけれど。

「白花、お前は謙虚すぎる。おごることなく控えめで慎ましい性格は好ましいが、もっと自分に自信をもっていい」
「荒日佐彦様……」

 荒日佐彦の手が優しく白花の顎に触れ、愛しそうに撫でてくる。






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