荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
「どうしたのだ?白花」
「……嬉しい。嬉しいんです。荒日佐彦様を苦しめるこの『厄』を祓う事ができるのが……よかった……よかった……」
畳の上に落ちて霧となって消えていく『禍』に近い『厄』からこの方を救える。
嬉しくて涙が止まらなかった。
「そう、泣くな。お前の瞳だけでなく、頬まで赤くされたら泣かした俺は哀しくなる」
「なにも哀しいことなどありません。荒日佐彦様と出会ってから、哀しくて泣いたことなどないんです。いつも嬉しくて泣くんです」
荒日佐彦の腕から、はらはらと黒い針が落ちていく。いつもの精悍で逞しい彼の腕が出てきた。
顔の針も祓う。
「痛かったでしょう」
労りの言葉が自然に口から出た。
「この『厄』は、荒日佐彦様に取り憑いて痛みを与えていますが、こうして祓うことでこの『厄』も喜んでいるみたいに思えます。『どうか私たちを癒やして』と言っているように思えてなりません。荒日佐彦様は体の痛みだけでなく、取り憑いた『厄』の痛みまで受け止めていらっしゃる。とてもできることではありません。そして祓うお手伝いができることがとても嬉しいんです」
黒い針が全て祓われ、美しい荒日佐彦のかんばせが出てくる。
「白花……俺はお前を誇らしく思う」
「私の方こそ……荒日佐彦様の妻になれたことが誇らしくて、そしてこうして貴方のお役に立てることが何よりも嬉しい……」
あった黒い針は白花が触れると容易く取れ、落ち、黒い塵となって消えていく。
「こんな私でも、出来ることがあるのだと荒日佐彦様の元へ来てからよく思うんです」
「白花、これはお前しか出来ぬことだ」
逞しく大きな手のひらが白花の顔を包む。
優しく、愛おしく。それが伝わってきて白花は嬉しくて彼の手の中で微笑む。
「私が槙山家の人間であったことがとても嫌で哀しかった……。けれど今は、この血を受け継いだからこそ、貴方と出会え、貴方のお役に立てた」
「……お前のこの『力』は、お前の母の血であろう。信仰心の薄れと同じく『力』も薄くなっていっていると代々の荒神たちは話していた。しかし、ここにきて力のある巫女の血を引くお前がきてくれたのだ」
「そうでしたの……?」
「ああ。……もう、槙山の人間には浄化する力も祓う力も滓ほど残っておらん。それでも信仰心があればまだましだったのに。自らの役割を忘れ、他の者を雇ったところで我らの契約を細くなり、ついには切れた。今回の『厄』はそれが原因であろう。押さえていた『厄災』が吹き出しはじめた上に、『禍』を引き入れた……」
「それじゃあ、この村はどうなってしまうんです?」
不安に駆られ白花は荒日佐彦にすがりつく。すっかり黒い針を落とし、いつもの凛々しい青年の姿に戻った彼は白い歯を見せて軽やかに笑う。
「そのために俺と白花がいるのではないか。今回で『契約は切れた』が花嫁となったお前と、お前に惚れた私がこの村含む一帯を守る。これは白花が花嫁となったお陰で契約が持続したのだ。もう百年は大丈夫だろう」
「……では、百年後は……?」
百年――それは荒日佐彦が荒神から昇格し、他の神の名を名乗るときだ。
その際、今回のように神宮は建て替えられ新しい荒神とその花嫁が入る。
その時にはもう槙山家はない、ということなのか?
それとも、他の家が跡を継いでいるのか?
白花の戸惑いを察したのか荒日佐彦は、微笑みながら白花の額に唇を落とした。
「……嬉しい。嬉しいんです。荒日佐彦様を苦しめるこの『厄』を祓う事ができるのが……よかった……よかった……」
畳の上に落ちて霧となって消えていく『禍』に近い『厄』からこの方を救える。
嬉しくて涙が止まらなかった。
「そう、泣くな。お前の瞳だけでなく、頬まで赤くされたら泣かした俺は哀しくなる」
「なにも哀しいことなどありません。荒日佐彦様と出会ってから、哀しくて泣いたことなどないんです。いつも嬉しくて泣くんです」
荒日佐彦の腕から、はらはらと黒い針が落ちていく。いつもの精悍で逞しい彼の腕が出てきた。
顔の針も祓う。
「痛かったでしょう」
労りの言葉が自然に口から出た。
「この『厄』は、荒日佐彦様に取り憑いて痛みを与えていますが、こうして祓うことでこの『厄』も喜んでいるみたいに思えます。『どうか私たちを癒やして』と言っているように思えてなりません。荒日佐彦様は体の痛みだけでなく、取り憑いた『厄』の痛みまで受け止めていらっしゃる。とてもできることではありません。そして祓うお手伝いができることがとても嬉しいんです」
黒い針が全て祓われ、美しい荒日佐彦のかんばせが出てくる。
「白花……俺はお前を誇らしく思う」
「私の方こそ……荒日佐彦様の妻になれたことが誇らしくて、そしてこうして貴方のお役に立てることが何よりも嬉しい……」
あった黒い針は白花が触れると容易く取れ、落ち、黒い塵となって消えていく。
「こんな私でも、出来ることがあるのだと荒日佐彦様の元へ来てからよく思うんです」
「白花、これはお前しか出来ぬことだ」
逞しく大きな手のひらが白花の顔を包む。
優しく、愛おしく。それが伝わってきて白花は嬉しくて彼の手の中で微笑む。
「私が槙山家の人間であったことがとても嫌で哀しかった……。けれど今は、この血を受け継いだからこそ、貴方と出会え、貴方のお役に立てた」
「……お前のこの『力』は、お前の母の血であろう。信仰心の薄れと同じく『力』も薄くなっていっていると代々の荒神たちは話していた。しかし、ここにきて力のある巫女の血を引くお前がきてくれたのだ」
「そうでしたの……?」
「ああ。……もう、槙山の人間には浄化する力も祓う力も滓ほど残っておらん。それでも信仰心があればまだましだったのに。自らの役割を忘れ、他の者を雇ったところで我らの契約を細くなり、ついには切れた。今回の『厄』はそれが原因であろう。押さえていた『厄災』が吹き出しはじめた上に、『禍』を引き入れた……」
「それじゃあ、この村はどうなってしまうんです?」
不安に駆られ白花は荒日佐彦にすがりつく。すっかり黒い針を落とし、いつもの凛々しい青年の姿に戻った彼は白い歯を見せて軽やかに笑う。
「そのために俺と白花がいるのではないか。今回で『契約は切れた』が花嫁となったお前と、お前に惚れた私がこの村含む一帯を守る。これは白花が花嫁となったお陰で契約が持続したのだ。もう百年は大丈夫だろう」
「……では、百年後は……?」
百年――それは荒日佐彦が荒神から昇格し、他の神の名を名乗るときだ。
その際、今回のように神宮は建て替えられ新しい荒神とその花嫁が入る。
その時にはもう槙山家はない、ということなのか?
それとも、他の家が跡を継いでいるのか?
白花の戸惑いを察したのか荒日佐彦は、微笑みながら白花の額に唇を落とした。