荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
 しばらくすると、バタバタと使用人たちが慌ただしく玄関に向かっていく。父も兄も美月の結納に付き添うのだろう。
 賑やかな声が屋敷の正門から聞こえ、やがて静寂がやってきた。
 シンと静まりかえった広い屋敷は、うさぎ一人しかいないような錯覚さえ起きる。
 うさぎは居住まいを正し座ろうとしたが、美月に踏まれた左足が痛み、正座が困難だ。

 とりあえず冷やそうと今まで着ていた着物の端をちぎり、台盤所に出向く。
 誰もいないことにホッとして水釜から少し水を汲んで端切れを濡らすと、足首を冷やした。

「迎えにくるまでに痛みが引くといいんだけど……」

 でないと、碌に座ることもできない花嫁を連れてきたと神様はお怒りになるだろう。

 怒らせてはいけない。
 自分だけの罪として喰われるならそれはそれでいい。
 けれど、怒りの矛先が村の人々だけでなく、この一帯にまで及んでしまったら――

(駄目……っ! 早く治って……っ)

 自分が「神の花嫁になれ」と父に命じられた夜を思いだす。
 うさぎは祈りを込めながら何度も足首を冷やした。
< 5 / 76 >

この作品をシェア

pagetop