荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる

◆ 下界 神託と宮司の憂い

 宮司は寝床から跳ね起きると、着替えをそこそこに仮本殿の神座に座り御魂代に深々と頭を垂らす。
 御魂代は御錦に包まれており荘厳とした佇まいで神座に鎮座している。

『神の交代だ。本宮を建て直し、花嫁を』
 という神託を受けた以来、こうして御祭神に呼ばれたのは久しぶりだ。

 しかも――
「降神の儀もなく、私のところに降りてくださるとは……なんともったいないこと」

 感無量でありながらも、畏怖恐々としている宮司の前に降りたのは、荒日佐彦。

「我の声が聞こえ者がお前でよかった。……さて、話があるのだ」
「はい、なんなりと」
「一つは、槙山家の宮司がこの神社の役職から離れ、お前が跡を継いだ件だ」
「急な交代で申し訳ございません。やはり槙山家の者に関わってもらうのが筋でしょう」
「いや、それはもう良い。こちらも納得している。以後、お前が継ぐがいい」
「しかしながらわたくしめには、妻も子もおりませぬ……」
「宮司、お前の目に叶った者に跡を継がせるがいい。お前の目なら信用できる」

 それは宮司にとってこれ以上ない賛辞に聞こえ、鼻をすすりながら声を出す。

「はい、承知しました」
「それと……本日、この村と周辺の『厄』を取り込んだ。これは『禍』に近いもの。人間同士の争いか邪な者たちが蠢いておろう。そちらでも重々祓い清めねばならん」
「はい。わたくしの力の及ぶ限り、精一杯務めさせていただきます」

 それから、しばしの間静寂が起きた。

 もうお去りになられたか? ――と思うも、まだ重厚で荘厳な圧が目の前に鎮座しているのを宮司は感じ、頭を上げられない。
 一つ、溜め息が漏れた。
 神が溜め息を?
 何か機嫌を損ねるようなことをしたのだろうか?
 いや、もしかしたら献上品が途中から変わったことに不満が?

「発言の許可をいただいてもよろしいでしょうか?」

 ああ、と小さいがハッキリとした応答に宮司は口を開く。

「もしや、お納めしました献上品に何か問題が……?」
「いや、問題ない。むしろ短い期間でよくあれだけ支度を調えたと感謝している。……白花、――下界で『うさぎ』と呼ばれていた我の妻に、あつらえたようにどれも似合っていた。お前が我が妻を想い調えたのだろう?」
「決して、他意なぞございません。……そうですか、よい名前を与えられ、あなた様に可愛がられているようで安心しました」

「それと……槙山家の者に伝えよ。『神信せよ』と」
「それは……! もしや、槙山家に禍いが? やはり、引き続き辻結神社を奉るよう説得いたします!」
「神職から離れただけで、突然に滅びるわけではない。……だが、今までの加護がなくなる分、己等が努力せねばこれ以上栄えることなどない」

 ――直系は、自らの行いを改めよ。我が妻に感謝せよ。






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