荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
しかし、この二人の思惑は信神とか罰が当たるとか、そのようなことを懸想しているのではない。

 とにかく自分たちより格上の『鷹司家』に想いを馳せている。
 人間社会で女性として誰よりも上の身分になることに美月は有頂天になっており、母の方は自慢の娘が国の頂点に近い一族の一人になることで、自分もその輪の中に入れることが何よりの自慢になっていた。
 鷹司家の不評を買いたくない。
 
 ――それと、男たちは忘れているようだが女たちは忘れてはいない。

 厄介者であった『あの女』を。
「忘れろ」といわれても、忘れることなどできない。

 母は――いくら遷宮の際の花嫁を差し出すために作った娘だとしても、他の女に孕ませた。別腹の憎い娘。
 娘は――別腹だとしても、白い髪に赤い目という奇怪な容姿の妹がいたという事実。
 稀な髪と瞳の色を持ちながらも、こちらがハッと見惚れてしまう儚げで美しい顔。

 ――あの女が贄として差し出された神社なんぞ、祀りたくない――

 やっと消えたのに。
 清々したのに。

 もし、贄として差し出したことを鷹司家が知ったら?
 いえ、万が一にでも再び『あの女』が目の前に現れたりしたら?
 あり得ない。
 だって『花嫁』というのは『神に捧げる生贄』のこと。
 とうに、この世にはいない。
 現に鳥居を潜ったら消えたと宮司が言っていた。

 けれど
 けれど――
 本当は生きていたら?
 宮司が逃していたら?
 
 そうよ、神の花嫁だなんて作り話。逸話よ。
 きっと宮司が『あの女』を、どこかに逃がしたに決まっている。
 
 それでも自分たちの前から消えたことに満足していた。
 なのに今になって身を襲う不安。

 この目で完全に『あの女』がいないことを、確認しないと。

 でないと
 私たちの幸せが脅かされる――







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