荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
荒日佐彦は変わらず、いや日に日に自分への愛の密度が、濃くなっていくように思う。
例えば、甘くて美味の砂糖菓子を与えられているようで、白花は毎日幸せを感じていた。
そうして白花はここにきて自分の意見も言えるようになり、ちょっとした冗談も口にするようにまでなった。
毎日笑い、栄養のあるものを十分に食べて、実家にいたときはできなかった読書など自分のための時間も作れて。
傍には愛してくれる相手がいる。
自分の彼への愛もますます深まって、彼のために命をも捧げても構わないとさえ思うようになっていた。
「今だって白花は、まだ細い方だぞ? ご飯だっておかわりをしないし」
「兎たちがいつもたくさんの品数を、少しの量で出してくれるではありませんか。私が色んな栄養を摂れるように作ってくれて、それを残さずに食べなくてはと。それにどれもとても美味しいですし」
「白花が満足しているのあればいい。――飯の話をしていたら腹が減ってきた」
「まあ、では菓子でも出しましょう」
白花はいそいそと台盤所に出向くと、明日の下ごしらえをしていた兎たちがわらわらと近づいてきた。
「白花さま、どうした?」
「喉、渇いた?」
「お腹空いた?」
矢継ぎ早に尋ねてくる兎たちに白花は、ほのぼのとしながら言った。
「荒日佐彦様が少々、小腹が空いたのですって。お菓子をもらっていいかしら?」
「みたらし団子、ある」
「大福、ある」
「びすけっと、ある」
白花の言葉に兎たちはいっせいに散らばると、すぐに菓子を手に集まった。
「まあ、うふふ。ありがとう。でもこんなにたくさん食べられないわ。あとは寝るだけですから、軽い物がいいかしら?」
「軽いの?」
「羊羹?」
「かすていら?」
「葛餅?」
兎たちはまたいっせいに散らばって、お菓子を持ってくる。
「じゃあ、葛餅がいいかしら。あとはあなたたちが食べて」
やったー! と兎たちは大はしゃぎだ。
兎たちが煎ってくれたほうじ茶とともに、荒日佐彦の元へ戻る。
「荒日佐彦様……?」
彼が気難しい顔をして月を眺めているのに白花は、いいようのない不安が胸を覆った。
「白花、何かめぼしい菓子はあったか? ……おお! 葛餅か! いいな」
「もう寝る前なので、お腹に優しい菓子を選びました」
白花は不安を振り払うように笑顔で答える。
香ばしいほうじ茶を飲み、きなこと黒蜜が絡んだ葛餅を食べながら談笑をして、一息ついた頃、荒日佐彦が神妙な顔をして白花に告げた。
「先ほど下界から先触れがあった」
「宮司様からですか?」
「いや、人からではない。下界にいる精霊からだ」
「精霊……『チ』のことでしょうか?」
「そうだ。よく勉強している、偉いぞ」
荒日佐彦に頭をナデナデされた白花は、自分が子供扱いされているようで少々不満だったが、今はそれに異議を申し立てている雰囲気ではない。
古代から日本では生物でも無生物でも魂が宿っているとされ、それが意識を持つまで成長したものは精霊――『チ』となるという。
白花も実家にいたころは何も気づかずにいたが、ここにきてなんとなく感じるようになってきていた。
土の精『ノヅチ』や岩の精『イワツチ』など。
火の精『カグツチ』なんかは台所でたまに見かける。
「その精霊はなんと……?」
「今回、先触れをしてきたのは『サチ』だ」
「……『サチ』?」
聞いたことのない精霊で、白花は首を傾げる。
「漢字で『幸』『狭知』と書く。幸福をもたらす力を持つ精霊だ」
「『サチ』様はなんと?」
「……禍事の相が槙山家に現れているそうだ」
「それは……お父さまたちに不幸が襲いかかるということですか?」
みるみる白花の顔色が悪くなる。荒日佐彦はそんな妻の頬を撫でた。
「お前が案じることなどない。これは予定調和だ。……すでに白花が私の元にきたことで確実になっただけ」
「……わたしのせい?」
「白花が生まれる前からだ。多々、分岐があった。この将来を選んだのは槙山家の当主。当主が先祖の想いを敬い、妻にする女性の選択を間違えず、娘を躾けていればまた違った先があった。白花のせいではない」
「でも……」
「心配するな。これからまた違う選択をしたら多少は変わる。白花は三日後の身支度の準備を頼む」
荒日佐彦に白花の身体がすっぽりと包まれる。
いつも自分の憂いは荒日佐彦に抱かれると霧散してしまうのに……
今夜のことは霧散しきれず白花の心の片隅に貼り付いた。
そして次の日から荒日佐彦は最後の潔斎として神界へ。
遷宮の前日に戻ってくると白花に約束して、仮宮から出ていった。
例えば、甘くて美味の砂糖菓子を与えられているようで、白花は毎日幸せを感じていた。
そうして白花はここにきて自分の意見も言えるようになり、ちょっとした冗談も口にするようにまでなった。
毎日笑い、栄養のあるものを十分に食べて、実家にいたときはできなかった読書など自分のための時間も作れて。
傍には愛してくれる相手がいる。
自分の彼への愛もますます深まって、彼のために命をも捧げても構わないとさえ思うようになっていた。
「今だって白花は、まだ細い方だぞ? ご飯だっておかわりをしないし」
「兎たちがいつもたくさんの品数を、少しの量で出してくれるではありませんか。私が色んな栄養を摂れるように作ってくれて、それを残さずに食べなくてはと。それにどれもとても美味しいですし」
「白花が満足しているのあればいい。――飯の話をしていたら腹が減ってきた」
「まあ、では菓子でも出しましょう」
白花はいそいそと台盤所に出向くと、明日の下ごしらえをしていた兎たちがわらわらと近づいてきた。
「白花さま、どうした?」
「喉、渇いた?」
「お腹空いた?」
矢継ぎ早に尋ねてくる兎たちに白花は、ほのぼのとしながら言った。
「荒日佐彦様が少々、小腹が空いたのですって。お菓子をもらっていいかしら?」
「みたらし団子、ある」
「大福、ある」
「びすけっと、ある」
白花の言葉に兎たちはいっせいに散らばると、すぐに菓子を手に集まった。
「まあ、うふふ。ありがとう。でもこんなにたくさん食べられないわ。あとは寝るだけですから、軽い物がいいかしら?」
「軽いの?」
「羊羹?」
「かすていら?」
「葛餅?」
兎たちはまたいっせいに散らばって、お菓子を持ってくる。
「じゃあ、葛餅がいいかしら。あとはあなたたちが食べて」
やったー! と兎たちは大はしゃぎだ。
兎たちが煎ってくれたほうじ茶とともに、荒日佐彦の元へ戻る。
「荒日佐彦様……?」
彼が気難しい顔をして月を眺めているのに白花は、いいようのない不安が胸を覆った。
「白花、何かめぼしい菓子はあったか? ……おお! 葛餅か! いいな」
「もう寝る前なので、お腹に優しい菓子を選びました」
白花は不安を振り払うように笑顔で答える。
香ばしいほうじ茶を飲み、きなこと黒蜜が絡んだ葛餅を食べながら談笑をして、一息ついた頃、荒日佐彦が神妙な顔をして白花に告げた。
「先ほど下界から先触れがあった」
「宮司様からですか?」
「いや、人からではない。下界にいる精霊からだ」
「精霊……『チ』のことでしょうか?」
「そうだ。よく勉強している、偉いぞ」
荒日佐彦に頭をナデナデされた白花は、自分が子供扱いされているようで少々不満だったが、今はそれに異議を申し立てている雰囲気ではない。
古代から日本では生物でも無生物でも魂が宿っているとされ、それが意識を持つまで成長したものは精霊――『チ』となるという。
白花も実家にいたころは何も気づかずにいたが、ここにきてなんとなく感じるようになってきていた。
土の精『ノヅチ』や岩の精『イワツチ』など。
火の精『カグツチ』なんかは台所でたまに見かける。
「その精霊はなんと……?」
「今回、先触れをしてきたのは『サチ』だ」
「……『サチ』?」
聞いたことのない精霊で、白花は首を傾げる。
「漢字で『幸』『狭知』と書く。幸福をもたらす力を持つ精霊だ」
「『サチ』様はなんと?」
「……禍事の相が槙山家に現れているそうだ」
「それは……お父さまたちに不幸が襲いかかるということですか?」
みるみる白花の顔色が悪くなる。荒日佐彦はそんな妻の頬を撫でた。
「お前が案じることなどない。これは予定調和だ。……すでに白花が私の元にきたことで確実になっただけ」
「……わたしのせい?」
「白花が生まれる前からだ。多々、分岐があった。この将来を選んだのは槙山家の当主。当主が先祖の想いを敬い、妻にする女性の選択を間違えず、娘を躾けていればまた違った先があった。白花のせいではない」
「でも……」
「心配するな。これからまた違う選択をしたら多少は変わる。白花は三日後の身支度の準備を頼む」
荒日佐彦に白花の身体がすっぽりと包まれる。
いつも自分の憂いは荒日佐彦に抱かれると霧散してしまうのに……
今夜のことは霧散しきれず白花の心の片隅に貼り付いた。
そして次の日から荒日佐彦は最後の潔斎として神界へ。
遷宮の前日に戻ってくると白花に約束して、仮宮から出ていった。