荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
二人憎々しげな表情で、宮司を見下ろしている。
「ああ! やめさせないと! お父さまは? お兄さまは? どこにいるの?」
白花の問いに兎たちは、
「勇と当主は昨日からいない」
「美月の婚約者の、お屋敷にいってる」
と告げた。
「明日の遷宮の準備でしょう。鷹司の家から援助をいただいておりますので、その礼にいったのだと」
とアカリ。
「……では、止める者がいない……」
こうしている間にも、宮司の腹に蹴りを入れようとしている下男がいる。
「ああ! 止めて!」
神殿から降りて行こうとする白花を、アカリはがっしりと囲い引き止める。一緒に兎たちもだ。
止めに入った禰宜が代わりに蹴られ、宮司と共に暴力を振るわれはじめた。
巫女たちはどうすることも出来ず震え、たまに美月と義母に止めるよう願い出ているが聞き入れてもらえていない。
「アカリ、離して! 止めないと! 宮司様が死んでしまうかも!」
「白花様! 結界の外へ出ては危険です! 今この結界で私たちの姿は人間には視えておりません! でも、白花様が出てしまえば、きっとこの悪道共たちは白花様を狙うのに決まっております!」
「ど、どうして……私を?」
「この悪道たちの狙いは白花様だからです」
「……私?」
アカリが頷く。
「あの悪女どもは、白花様が亡くなったと思っております。しかし、猜疑心に囚われておしまいになりました。とにかく貴女様が憎いという心に囚われてしまっております。結婚後も自分に影を落とすのは白花様だと思っております。『贄』として食われたはずの『貴女』様が本当は、宮司が逃がしてどこかに隠しているのだと信じ切っているんです」
「そんな……」
白花は足に力が入らなくなって、その場に座り込んでしまった。
「隠しているなんて……逃がしたなんて……ないのに」
「鳥居を潜ったら消えた、と宮司様は正直にお答えになったようです。……一昔前ならそれで終わりだったのに、今は神隠しというものを信じない輩たちが増えたのが原因でしょう」
アカリの話の辻褄があうようなことを下男たちは怒鳴っていて、白花の顔は蒼白になった。
「本当に消えたのだ……! 嘘など言わん!」
「この嘘つきめ! お前は日頃からうさぎのことを目にかけていた! 大方情が移ってどこかへ逃がしたんだろう!」
「そうだ! 化け物に魅いられた奴なんぞ、神に仕える資格なんざねえ!」
下男たちの暴行は止まらない。
砂利に横たわる宮司を起こし、殴りつけ、それを庇う禰宜まで暴行を加える。
楽しげに力をふるう下男たちを、美月と義母は止めようとしない。
「正直に言いなさいよ。本当はどこかにかくまっているんでしょう?」
「社務所にはいなかったから、どこかの山の中だわ。きっと」
なんて言いながら、二ヶ月後に控えているという挙式のことを二人で楽しそうに話している。
(こんな暴行を指図して、それを眺めながら挙式の話なんて――狂ってる)
その狂いを生じさせたのは自分だ。
白花は口を引き結ぶとアカリに言った。
「……お願い……私を結界から出して」
「白花様、いけません」
アカリは首を縦に振らない。
いいえ、駄目。
このままでは宮司様が死んでしまう。
――なら、私が死んだ方がいい。
――ごめんなさい、荒日佐彦様。
「アカリ、ごめんなさい。私は私の意思でこの結界の向こうに行くことを望みます」
ハッキリと告げた言葉には――言霊が宿る。
アカリは気づいたのだろう。言霊で結界から白花がでられるようになったことを。
「白花様! 駄目です! せめて荒日佐彦様が戻ってくるまでお待ちください!」
引き止めようと腕を取ったアカリの手を払い白花は立ち上がると、駆け足で結界から外へ飛び出していった。
「ああ! やめさせないと! お父さまは? お兄さまは? どこにいるの?」
白花の問いに兎たちは、
「勇と当主は昨日からいない」
「美月の婚約者の、お屋敷にいってる」
と告げた。
「明日の遷宮の準備でしょう。鷹司の家から援助をいただいておりますので、その礼にいったのだと」
とアカリ。
「……では、止める者がいない……」
こうしている間にも、宮司の腹に蹴りを入れようとしている下男がいる。
「ああ! 止めて!」
神殿から降りて行こうとする白花を、アカリはがっしりと囲い引き止める。一緒に兎たちもだ。
止めに入った禰宜が代わりに蹴られ、宮司と共に暴力を振るわれはじめた。
巫女たちはどうすることも出来ず震え、たまに美月と義母に止めるよう願い出ているが聞き入れてもらえていない。
「アカリ、離して! 止めないと! 宮司様が死んでしまうかも!」
「白花様! 結界の外へ出ては危険です! 今この結界で私たちの姿は人間には視えておりません! でも、白花様が出てしまえば、きっとこの悪道共たちは白花様を狙うのに決まっております!」
「ど、どうして……私を?」
「この悪道たちの狙いは白花様だからです」
「……私?」
アカリが頷く。
「あの悪女どもは、白花様が亡くなったと思っております。しかし、猜疑心に囚われておしまいになりました。とにかく貴女様が憎いという心に囚われてしまっております。結婚後も自分に影を落とすのは白花様だと思っております。『贄』として食われたはずの『貴女』様が本当は、宮司が逃がしてどこかに隠しているのだと信じ切っているんです」
「そんな……」
白花は足に力が入らなくなって、その場に座り込んでしまった。
「隠しているなんて……逃がしたなんて……ないのに」
「鳥居を潜ったら消えた、と宮司様は正直にお答えになったようです。……一昔前ならそれで終わりだったのに、今は神隠しというものを信じない輩たちが増えたのが原因でしょう」
アカリの話の辻褄があうようなことを下男たちは怒鳴っていて、白花の顔は蒼白になった。
「本当に消えたのだ……! 嘘など言わん!」
「この嘘つきめ! お前は日頃からうさぎのことを目にかけていた! 大方情が移ってどこかへ逃がしたんだろう!」
「そうだ! 化け物に魅いられた奴なんぞ、神に仕える資格なんざねえ!」
下男たちの暴行は止まらない。
砂利に横たわる宮司を起こし、殴りつけ、それを庇う禰宜まで暴行を加える。
楽しげに力をふるう下男たちを、美月と義母は止めようとしない。
「正直に言いなさいよ。本当はどこかにかくまっているんでしょう?」
「社務所にはいなかったから、どこかの山の中だわ。きっと」
なんて言いながら、二ヶ月後に控えているという挙式のことを二人で楽しそうに話している。
(こんな暴行を指図して、それを眺めながら挙式の話なんて――狂ってる)
その狂いを生じさせたのは自分だ。
白花は口を引き結ぶとアカリに言った。
「……お願い……私を結界から出して」
「白花様、いけません」
アカリは首を縦に振らない。
いいえ、駄目。
このままでは宮司様が死んでしまう。
――なら、私が死んだ方がいい。
――ごめんなさい、荒日佐彦様。
「アカリ、ごめんなさい。私は私の意思でこの結界の向こうに行くことを望みます」
ハッキリと告げた言葉には――言霊が宿る。
アカリは気づいたのだろう。言霊で結界から白花がでられるようになったことを。
「白花様! 駄目です! せめて荒日佐彦様が戻ってくるまでお待ちください!」
引き止めようと腕を取ったアカリの手を払い白花は立ち上がると、駆け足で結界から外へ飛び出していった。