荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
(結婚すれば、慶悟様の妻になれば位は私の方が上になる……。そうしたらもう兄様の言うことなんて聞かなくて良い。ううん、顎で使ってやれる!)

 慶悟は勇の親友で、その縁で自分は彼と結婚できるのだということなど美月の頭の中からはすっぽり抜けていた。

 美月は侮蔑をこめた笑みを浮かべながら、白花に近づく。
「この売女が! いい着物なんか着て……! 大方、宮司を色惚けさせて贅沢をしていたんでしょ!?」
 白花が避けるより早く美月の手が伸び、彼女の髪を掴むと引っ張り倒した。

「きゃっ!?」
 前屈みで倒れた白花を、美月は足で何度も踏み続ける。
「おやめください! うさぎは……白花様は御祭神の花嫁ですぞ!」
 禰宜や巫女たちは白花の出現で我に返ったのか、皆で必死に白花の体に覆い被さり、護る。
「皆さんも逃げて……っ、怪我しているではありませんか!」
 そう促すが禰宜も巫女たちも頑として聞かず、白花と宮司の上に覆い被さり暴行を受けた。

「いいえ、我々は神にお仕えする者です!」
「宮司様と御祭神様の花嫁をお守りしなくては!」
「……あなたたち、ごめんなさい」

 禰宜と巫女、そして宮司の気持ちを思うと切なくて白花の目から涙が零れてくる。
「もう、もう止めて! 美月もお義母様も……! 私がここから去ればいいんでしょう? 出ていくから止めて!」

 二人は自分の存在を、どれだけ恐れているのか。
 自分たちがしたことがただ、自分の心に返ってきてるだけなのに。
 白花を痛めつければ痛めつけるほど美月も義母は、ますます不安と恐怖に囚われていくことがわからないのか?

 下男たちは美月の命で、禰宜と巫女を白花から引き剥がした。
 座り込んでいる白花と美月は、対峙する形になる。
 美月は息が上がってはぁはぁと荒い息を吐き出し、肩が揺れていた。
 着物の裾は乱れ、整えていた髪も飾りが外れ背中に流れ落ちている。
 何かに取り憑かれたような剣呑さで、義母も下男たちも美月に近づくことも声をかけることも出来ない。

 美月が白花に、忌々しそうに吐き出した
「何が白花よ、うさぎはうさぎ。髪は真っ白。目は真っ赤なうさぎになれなかった憐れな人間よ。……なのに、図々しく隠れ住んでいて……うさぎはうさぎらしく山奥でボロボロになっていなさいよ!山から下りてくるんじゃないわ!」

 蹴り続けるのが疲れた美月は、下男から棒をひったくると白花に振り落とした。

「――っ!?」

 白花は思わず目を瞑る。瞬間誰かが自分を抱きしめた。
 恐る恐る目を開けると、宮司が自分を抱きしめ代わりに打たれていたのだ。

「宮司様! 駄目! 本当に死んでしまいます! 私なら平気ですからどうか離れてください!」

 宮司は力なく頭を横に振る。けれど白花を抱きしめる腕は強く、か弱い女の手では振りほどけなかった。

「この……っ! この! どきなさい! でないとうさぎと一緒に殺すからね!」

 美月が脅迫と侮蔑の言葉を吐き続けながらも、殴打を続ける。
 その姿の恐ろしさに義母や下男たちは、身を凍らせていた。
 明らかに興奮状態でいる美月は、残虐な笑みを浮かべて口汚く嘲罵する。

 ――まるで鬼のようだ。

「……あ、美月、美月……っ、も、もう止めなさい。本当に死んでしまうわ」
「お母さま止めないで! ……こいつら、こいつらがいたら私と慶悟様の将来がないのよ……!」
「殺してしまえばそれこそ、お前の結婚はなくなります!」

 母の声にピタリ、と美月の手が止まった。そうして義母に振り返ると妖艶に微笑みながら言う。

 「平気よ。死んでしまえばわからない場所に埋めてしまえばいいの。この女は宮司の言うとおり神の花嫁になって消えてしまったし、宮司は神隠しに心を痛めてどこかへ去ってしまった……そういえばいいでしょう?」

 娘の言葉に一瞬驚いて見せた義母も、
「……そうね、それがいいわ。なら、さっさと殺さないと。禰宜も巫女も同様にね……? でないと、主人に告げ口でもされたら大変だから」
 美月と同じく禍々しい笑いを見せた。








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