荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる

◆ 純然たる御曹司は、無邪気に

「じゃあ、この棒ではなくてもっと、そう鉈の方がいいわね。薪割りの鉈がいいわ」
 と、義母が下男に命令するが、彼の方は怖じ気づいたのか口を震わせたままかぶりを振った。

「お、奥様……それはまずい、まずいですよ……。オレたちゃあ殺しはごめんだぁ」
「……意気地のない。もうお前たちは私たちの共犯者なんですよ? このままでいたら必ずお縄になりましょう。……まあわたくしたちは主人と鷹司のお力で、どうにかなりますけれど……ねぇ?美月」
「お母さまの言うとおりよ。もうお前たちも逃げられない……それに、そうねぇ。ご褒美にまた『以前のような遊び』をしても構わないわ」
「お嬢様……」

 髪飾りを外し、下ろした髪を櫛で整えながら美月は妖艶に告げた。
 その様子はまさに妖女と呼ぶに相応しい禍々しい美しさがあって、下男たちは生唾を飲み込む。
 もうそれで承諾を得たようなものだ。
 
 下男たちは意気揚々として、薪の保管場所へ向かった。
「美月、貴女……まさかもう……」

 母の疑わしいと見つめてきた視線に、美月は含んだ笑いをする。
「慶悟様は純粋なお坊ちゃまだもの。初夜におぼこのふりをすれば、わかるはずないわ」
「あのような下賤な者に……貴女という人は……」

 呆れた顔の母に美月は笑う。
「身分は下でも、逞しいのよ。体付きも。そしてお顔がいいじゃない? 私の命じるがままに楽しませてくれるもの」

 さて、と美月は砂まみれになった白花を見下ろす。
「あんたは槙山家の汚点なのよ。だからいては存在そのものが困るの。さっさと土塊にしてあげる」
 と目を細めた。

 ――悪鬼だ。

 白花はそう美月を見上げた。
 『悪』の塊だ。
 倒れた三日月のように細める目は、邪悪で染まって。
 口角だけ上がる唇は血を吸ったように赤い。

(どうして気づかなかったの?)

 私がいなかった一年で様変わりした?

――禍事(まがいこと)の相――

 というのは、美月が起こす行動のことで

 『禍』というのは美月そのもの――

「……駄目よ、駄目……っ。美月、思い直して! 今すぐ止めて! でないと――っ」

 パァンという音とともに白花の左頬に痛みが走った。

「あんたに私の名前を呼ぶ権利を与えていないわよ。前のように顔を下に向いてなさいよ。『醜い化け物』が! 化け物は化け物らしくしていなさい!」

『化け物』――過去に呼ばれていたあだ名に白花の体が一瞬硬直した。

 私は醜い。
 目も赤いし髪も老人のように白い。化け物だ。
 急速に心が萎んでいくのがわかる。

(私は、醜い……)

 そう心の中で呟いた。




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