荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
 慶悟は、「妹」という部分だけ聞いて、それ以外の美月の訴えをまともに聞いていないようだった。
 すがりついてきた美月を引き剥がし、いそいそと白花の元へやってきた。
 そしてしげしげと、珍獣でも見るように白花を下から上まで眺める。

「『白人(しらひと)』だ。初めて見たよ。この子の目は赤いんだね。ねえ君、陽に当たって大丈夫なの? 肌は火傷したり水ぶくれを起こしたりは?」
「……? 平気ですけれど……」

 急に現れて馴れ馴れしく近づいて話しかけてきた若者に、白花は警戒しつつも、問いに答えた。

「へぇ!! 今まで聞いて事がないよ! 勇、どうしてこんな珍しい妹を隠していたんだい? これは医学界にとって、すごい発見だよ?」
「……僕たちは、医学の研究者ではないだろう?」

 勇は溜め息をつきながら答えた。

「遺伝子の問題かな?」

 自分で尋ねておきながら勇の言葉に碌に応えず、瞳をキラキラさせながら白花の体をあちこち、ジィッと見つめる慶悟の動きは忙しない。
 物珍しい玩具に遭遇して、喜んでいる子供のようだ。

「文献や写真でみる白人と少々違うみたいだ。そうだ、家に連れて帰ろう! 我が家の医師たちに診させて、その報告書を世界中に発表するんだよ! なあ、勇。そうしたら君の妹君が白人である原因が掴めるし、世界中の白人たちの研究だって進む。だって陽に当たっても元気でいるんだ!いい考えだろう?」
「……慶悟、僕は賛成できない」

 美月は勇の反対に便乗して声を上げた。

「そうよ! 絶対に嫌! どうして結婚しても、こんな出来損ないと一緒に鷹司家で生活しないといけないの? それにこの女は淫女です。一緒に住んだら慶悟様だけでなく屋敷で働いている男たちを誘惑して、きっと争いの元になります!」
「? さっきと話が違うんじゃないか? 白人の妹は色惚けした宮司に拐かされて情婦になったんだろう? それを憂いていたと。なら宮司から引き離した方がいいじゃないか」
「……っ! そ、それは……」

 勇に冷たい視線で蔑まれ、美月は肩をすぼめて口を噤んでしまった。

「まあいいや。ねえ、君。名前はなんて言うの? ああ、僕から名乗らなくては紳士らしくないね。僕は鷹司慶悟。君の兄の勇とは親友でね。少しは話を聞いているよね?」
「……はい」

 そうだ。勇は帝都の大学に宿舎を借りて通って、そこで鷹司財閥の息子と知り合って交流を深めていったと聞いた。
 冷静で物静かな勇と、対照的だと思う。

 よく言えば明るくて雄弁で朗らかだ。
 悪く言えば周囲を読まない、空回りした明るさがある。
 思ったことを取捨選択せずに喋る、小さな男の子を相手に話しているような錯覚に陥る。

「で、君の名前は?」
「白花、と申します」
「きよか、どんな漢字かな?」
「白い花、と書いて白花です」

 ヒューッと慶悟が口笛を鳴らす。

「センスあるなぁ。君の容姿にぴったりだ。あ、『センス』ってね、表現方法が優れてる、素敵だって意味だよ。父君がお付けになったのかな?」
「……いえ」

 御祭神である荒日佐彦様に付けていただいたと言っても、ここにいる誰もが信じやしないだろう。

「じゃあ、誰だろう? 母君?」

 答えようもないので、白花は黙って視線を逸らした。
 とにかく、いまこうして和気藹々としている場合ではない。

「私はここで失礼して、宮司様含む神社の関係者の方の手当をしたいと思います」

 そう言い、頭を下げ慶悟の前から去ろうとしたが、彼は白花の手を掴んで放そうとしなかった。

「ええ~、駄目だよ。僕は君ともっと話がしたいんだ。怪我人は勇たちに任せて白花は僕と一緒にいよう」






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