荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
勇蔵は苦々しい顔で。
美月は憎々しげに睨み付けて。
勇はなんとも言えない顔をしていた。
三者三様の表情と、慶悟の言葉に一番困惑したのは白花本人だ。
どうしてそんな話になっているのか。
けれど――白花の心は既に荒日佐彦のものだ。
「慶悟様、私は既に神の妻。貴方の元へは参りません」
はっきりと言い切る。
「神って、宮司のこと?」
慶悟は、わからないと言うように首を傾げてみせる。
「君は宮司の元で、妻として暮らしていたんじゃないのか?」
「宮司様とは一年前、私の神への嫁入り以来会ってはおりません。その間、御祭神である荒日佐彦神の元で暮らしておりました。……それは事実です」
「ううん? なんだか超常現象的な話になってきたなぁ。一年間神隠しに遭っていたってことになるけれど? それは事実?」
尋ねてきた慶悟に勇は頷いた。
「一年間、行方しれずだった。宮司が『鳥居を潜ったら消えた』と話していて嘘か真か検証しなかった。その女は……妹は元々、父が百年の遷宮のさいに行われる『贄』として育ったのだ。だが認識を違えたようだ。『贄』ではなく『神の花嫁』として妹は向際の世界へ行ったのだろう」
「勇、それ冗談? 頭、おかしくなってないよね?」
「……常日頃、僕が人ならざるものが視えると話しているだろう? 君だって真剣に僕の話を聞いていたじゃないか」
「ああ……そうだよね。君って先祖が神職だからそういうの、血筋で視えるとかって。いやぁ、本当だったんだ!」
「信じていなかったのか」と勇は小さい声でぼやき、話を紡いでいく。
「子供の頃はもっと視えていた。大人になってそう視えなくなったけれど。……美月だって視えていたはずだ。ただ、女性は処女性が関係するから。……美月、お前、早いうちに生娘じゃなくなったな?あれだけ『怖いのがいる』と泣きわめいていたのに、途中から平然と暮らすようになった」
「だからお兄さまは嫌いなのよ……」
美月が恨みがましそうに勇に吐き出した。
「慶悟、美月はともかく神の元へ嫁入りした妹は諦めろ。触れてはいけない相手だ」
勇の言葉の中に「妹」とあって、白花はくすぐったくなる。
兄は少なくても、自分を妹だと思っていてくれたらしい。関わりが少なすぎて知らなかった。
「――なら、尚更ほしくなるなあ」
しかしそんな勇の言葉も、慶悟には響いていなかった。
再び白花に近寄ると、今度は肩に抱えてしまう。
「きゃあ!? な、何を……?」
「連れて帰る。姿もそうだけれど、この子といると、なんだかどんなことも上手くいくような気持ちになるんだよね。それに、考え方もいい。一人の男に尽くして真っ直ぐな目で僕に反論してきた。こういう子、屈服させたくなる」
「慶悟! 止めておけ! 怖いもの知らずにもほどがあるぞ!」
「いやよ! うさぎと一緒に鷹司家に嫁ぐなんて! この疫病神!」
勇と美月が慶悟を止めるが、止める理由が違うのは一目瞭然だ。
しかも美月の方は、強引に慶悟の肩から白花を引きずり落とそうとしている。
――勇は、どうしてか白花に近寄らなかった。
「ちょっと! 美月さんを止めてよ、勇! 危ないって!」
「いやよ、いや! 売女の娘のくせに! 今まで宮司の情婦だったくせに! 慶悟様から離れなさいよ!」
「……無理だ、触れられない。お前たち、どうして妹に触れられるんだ……? 恐れ多くて触れられない……」
冷や汗をかいて青ざめている勇に、真っ先に気づいたのは勇蔵だった。
「勇、お前……そんなに力があったというのか?」
「すみません……僕は槙山家を継がなくてはならない。けれど父さんは神社の仕事と切り離そうとお考えだったので言えず……今まで黙っていました」
汗を拭い続ける勇は、その場に座り込んでしまった。
「勇! おい誰か! 美月も慶悟様も、とにかく落ち着きなさい!」
息子のただ事じゃない様子に、勇蔵は慌てて使用人を呼ぶがなかなかやってこない。
先に運ばれた妻や宮司たちの介抱で手が空いていないのか?
「……きませんよ、父さん……もうここは、神が降りてくる空間です」
「神……が?」
「慶悟! 妹を下ろせ! すぐにだ! 膝をついて顔を上げるな! 父さんも!」
「――?」
ただ事じゃない言い方に、父はすぐに膝を突く。
勇の剣幕に慶悟もなんだと文句を言いながらも、白花を肩から下ろした。
その時だった――
目映い光が目の前に現れ、眩しさに皆目を瞑る。
ようやく落ち着いた頃に目を開けると、そこには白花と彼女を抱き佇む男がいた。
「ほぉ、そこの槙山家の倅に救われたな。そのまま我が妻を担いでいたら命など消えていたわ」
傲然たる態度でそう告げた。
美月は憎々しげに睨み付けて。
勇はなんとも言えない顔をしていた。
三者三様の表情と、慶悟の言葉に一番困惑したのは白花本人だ。
どうしてそんな話になっているのか。
けれど――白花の心は既に荒日佐彦のものだ。
「慶悟様、私は既に神の妻。貴方の元へは参りません」
はっきりと言い切る。
「神って、宮司のこと?」
慶悟は、わからないと言うように首を傾げてみせる。
「君は宮司の元で、妻として暮らしていたんじゃないのか?」
「宮司様とは一年前、私の神への嫁入り以来会ってはおりません。その間、御祭神である荒日佐彦神の元で暮らしておりました。……それは事実です」
「ううん? なんだか超常現象的な話になってきたなぁ。一年間神隠しに遭っていたってことになるけれど? それは事実?」
尋ねてきた慶悟に勇は頷いた。
「一年間、行方しれずだった。宮司が『鳥居を潜ったら消えた』と話していて嘘か真か検証しなかった。その女は……妹は元々、父が百年の遷宮のさいに行われる『贄』として育ったのだ。だが認識を違えたようだ。『贄』ではなく『神の花嫁』として妹は向際の世界へ行ったのだろう」
「勇、それ冗談? 頭、おかしくなってないよね?」
「……常日頃、僕が人ならざるものが視えると話しているだろう? 君だって真剣に僕の話を聞いていたじゃないか」
「ああ……そうだよね。君って先祖が神職だからそういうの、血筋で視えるとかって。いやぁ、本当だったんだ!」
「信じていなかったのか」と勇は小さい声でぼやき、話を紡いでいく。
「子供の頃はもっと視えていた。大人になってそう視えなくなったけれど。……美月だって視えていたはずだ。ただ、女性は処女性が関係するから。……美月、お前、早いうちに生娘じゃなくなったな?あれだけ『怖いのがいる』と泣きわめいていたのに、途中から平然と暮らすようになった」
「だからお兄さまは嫌いなのよ……」
美月が恨みがましそうに勇に吐き出した。
「慶悟、美月はともかく神の元へ嫁入りした妹は諦めろ。触れてはいけない相手だ」
勇の言葉の中に「妹」とあって、白花はくすぐったくなる。
兄は少なくても、自分を妹だと思っていてくれたらしい。関わりが少なすぎて知らなかった。
「――なら、尚更ほしくなるなあ」
しかしそんな勇の言葉も、慶悟には響いていなかった。
再び白花に近寄ると、今度は肩に抱えてしまう。
「きゃあ!? な、何を……?」
「連れて帰る。姿もそうだけれど、この子といると、なんだかどんなことも上手くいくような気持ちになるんだよね。それに、考え方もいい。一人の男に尽くして真っ直ぐな目で僕に反論してきた。こういう子、屈服させたくなる」
「慶悟! 止めておけ! 怖いもの知らずにもほどがあるぞ!」
「いやよ! うさぎと一緒に鷹司家に嫁ぐなんて! この疫病神!」
勇と美月が慶悟を止めるが、止める理由が違うのは一目瞭然だ。
しかも美月の方は、強引に慶悟の肩から白花を引きずり落とそうとしている。
――勇は、どうしてか白花に近寄らなかった。
「ちょっと! 美月さんを止めてよ、勇! 危ないって!」
「いやよ、いや! 売女の娘のくせに! 今まで宮司の情婦だったくせに! 慶悟様から離れなさいよ!」
「……無理だ、触れられない。お前たち、どうして妹に触れられるんだ……? 恐れ多くて触れられない……」
冷や汗をかいて青ざめている勇に、真っ先に気づいたのは勇蔵だった。
「勇、お前……そんなに力があったというのか?」
「すみません……僕は槙山家を継がなくてはならない。けれど父さんは神社の仕事と切り離そうとお考えだったので言えず……今まで黙っていました」
汗を拭い続ける勇は、その場に座り込んでしまった。
「勇! おい誰か! 美月も慶悟様も、とにかく落ち着きなさい!」
息子のただ事じゃない様子に、勇蔵は慌てて使用人を呼ぶがなかなかやってこない。
先に運ばれた妻や宮司たちの介抱で手が空いていないのか?
「……きませんよ、父さん……もうここは、神が降りてくる空間です」
「神……が?」
「慶悟! 妹を下ろせ! すぐにだ! 膝をついて顔を上げるな! 父さんも!」
「――?」
ただ事じゃない言い方に、父はすぐに膝を突く。
勇の剣幕に慶悟もなんだと文句を言いながらも、白花を肩から下ろした。
その時だった――
目映い光が目の前に現れ、眩しさに皆目を瞑る。
ようやく落ち着いた頃に目を開けると、そこには白花と彼女を抱き佇む男がいた。
「ほぉ、そこの槙山家の倅に救われたな。そのまま我が妻を担いでいたら命など消えていたわ」
傲然たる態度でそう告げた。