荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
「今日、辻結神社の宮司が訪問されましたが、その件でしょうか?」
 勇が尋ねると、父は厳かに首肯した。

「宮司にご神託があったそうだ」
「本当にあるのですね、神からのお言葉が」
 義母が驚いた様子で口を開いた。

「ああ、なんでも百年ぶりだと聞いている」
「それでなんと?」
「『本宮を建て直せ』との仰せだ」

 ああ、と勇も義母も納得したように頷く。本宮に限らず、鳥居や拝殿に参道も劣化している。

「そろそろ修繕が必要だと思っていましたが、確か本宮以外はお祖父様の若い頃に建て直ししたはずでは?」
「だが、それももう五十年は経つからな」
「そのとき、なぜ、本宮は建て直さなかったのでしょう?」
本宮(あそこ)は神がお住まいになる場所。うかつに手が出せん。お伺いを立てても罰があたるかもしれない御祭神は荒神の性格も持つ神、『荒日佐彦』だ。故に神託が降りるまで待っていたということだ」

 辻結神社が祀る神は荒神だが、一般に知られている厨を守護する荒神と異なる神だ。
 地荒神でこの一帯の地域を守護している。
 人によっては「山の神様」「作神」とも呼んでいる。
 ――不謹慎な呼び名を言う人もいるが、それで怒りをくらい罰が当たった人はいないので、気安く口にしてしまい、同じ村人に叱られるということも多々あった。

「それで権宮司である槙山家に資金のお願いに来たわけですか」
「それだけじゃない。本宮を新しく造り替えている間、槙山家の土地に仮宮を造り一時的にそこに神を移すことになった。二三月後にお移りになる予定だ。急ぎ造らねばならん。そしてその際に神を世話する『花嫁』が必要となる。神に花嫁を差し出すのは我が『槙山』家の大切なお役目なのだ」

 緊迫した雰囲気となった。
< 7 / 76 >

この作品をシェア

pagetop