荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
◆ 荒神様の裁量
「我々ももう、戻らねば」
荒日佐彦がそう白花の手を引く。
はい、と白花も返事をするものの残された父や兄、そして宮司が心配で堪らなかった。
特に宮司はまた、父たちに酷い扱いをされるかもしれない。
白花は立ち止まり、荒日佐彦に頼む。
「荒日佐彦様、どうか少しお時間をください。これからのことを話さなくてはいけない方たちがいます」
白花が荒日佐彦から宮司、勇蔵、それから慶悟たちに視線を向けた。
それで荒日佐彦は理解したのだろう、首肯してみせた。
「そうだな、このままでは後味が悪い。これからのことを話すのも大事だろう」
「ありがとうございます」
「しかし、白花。そなたが人に姿を見せるのは今回限りと思いなさい。本来ならそなたの力では、姿を見せることはできなかった。これから先の力を前借りしているのだ。……わかるか?」
「そうだったんですね……」
人界と自分が住んでいる場所を隔てる結界は、今の自分では抜けることなどできなかったはずだったんだ。
それが出来たのは、自分の『強い思い』があったからこそ、と考えていたが、実際は違った。
「白花は半分人で半分神。『半神』だ。これは白花がいずれ『神』となったときに使うべき力を潜在意識で前借りしたということだ」
「……はい、わかりました」
白花は、にこりと荒日佐彦に微笑んでみせる。
後悔はしない、そういう決意を荒日佐彦は受け取って白花を宮司たちの元へ連れて行く。
「うさぎ……いや、今は白花だったな」
率先して白花に声をかけてきたのは勇だった。
そして父勇蔵を促し、二人で膝を突く。
「いままで済まなかった。これからは僕が父の代わりに神職に就き、辻結神社を支えていく」
「……儂も、この村に残り発展を支援していく。……それが槙山家の役目だということを忘れていた」
二人とも落ち着いた口調で話すのをみて、覚悟が出来ているのだと白花はホッとした。
――しかし、荒日佐彦がゆるりと首を横に振りながら告げた。
「槙山家の家長の代で、神職を務めるのは終わりだ」
「やはり、お怒りは解けませんか……」
勇が肩を落としながら呟いた。
「我が白花を妻として迎えたことで、槙山家との契約は切れたのだ」
「? それは一体どういうことでしょうか?」
勇が首を傾げるのはもっともだ。
それは白花にとっても不可解な言葉で、もしやと荒日佐彦に尋ねる。
「荒日佐彦様、私は槙山の血を引いてはいないのですか?」
「ああ、そうだ。――そこの宮司の血を引く」
「――えっ!?」
白花だけでなく、そこにいる全員が宮司に視線を向けた。
宮司は決意したのか、神妙な様子で佇んでいた。
「宮司様……貴方が? 私の本当の父……?」
「……御祭神様がそう仰るのであれば、そうなのでしょう」
宮司は静かな口調に答える。
「お前……! 儂を謀ったのか?」
勇蔵が怒りで顔を真っ赤にして、大声で宮司を責める。
「そうではございません。……私も御祭神様に言われるまでハッキリとわからなかったのです。流れ巫女であった鈴とこの村で出会ったのは、私が最初でした。酷く疲れ切った様子で足取りもおぼつかなく、今でも倒れそうなところを私が助けました。それから体調が戻って『恩返し』と神社の手伝いをしてくれて、最初で最後の恋と申しましょうか。いつのまにか私と鈴は、心を通わす仲になっていったのです」
「き、貴様……神職にあるまじきことだぞ!」
「神職でも結婚は許されております。貴方様もそうでしょう? しかしながら、何も受け継ぐものを持っていない私に、貴方様のように禁為だと騒ぐ者も出てくるだろうと、私はきっぱりと神職から離れ、鈴とこの村から去るつもりでおりました。……そこからは記憶にございましょう?」
急に責めるような声音になった宮司に、勇蔵はバツが悪そうな表情になり、顔ごと逸らす。
荒日佐彦がそう白花の手を引く。
はい、と白花も返事をするものの残された父や兄、そして宮司が心配で堪らなかった。
特に宮司はまた、父たちに酷い扱いをされるかもしれない。
白花は立ち止まり、荒日佐彦に頼む。
「荒日佐彦様、どうか少しお時間をください。これからのことを話さなくてはいけない方たちがいます」
白花が荒日佐彦から宮司、勇蔵、それから慶悟たちに視線を向けた。
それで荒日佐彦は理解したのだろう、首肯してみせた。
「そうだな、このままでは後味が悪い。これからのことを話すのも大事だろう」
「ありがとうございます」
「しかし、白花。そなたが人に姿を見せるのは今回限りと思いなさい。本来ならそなたの力では、姿を見せることはできなかった。これから先の力を前借りしているのだ。……わかるか?」
「そうだったんですね……」
人界と自分が住んでいる場所を隔てる結界は、今の自分では抜けることなどできなかったはずだったんだ。
それが出来たのは、自分の『強い思い』があったからこそ、と考えていたが、実際は違った。
「白花は半分人で半分神。『半神』だ。これは白花がいずれ『神』となったときに使うべき力を潜在意識で前借りしたということだ」
「……はい、わかりました」
白花は、にこりと荒日佐彦に微笑んでみせる。
後悔はしない、そういう決意を荒日佐彦は受け取って白花を宮司たちの元へ連れて行く。
「うさぎ……いや、今は白花だったな」
率先して白花に声をかけてきたのは勇だった。
そして父勇蔵を促し、二人で膝を突く。
「いままで済まなかった。これからは僕が父の代わりに神職に就き、辻結神社を支えていく」
「……儂も、この村に残り発展を支援していく。……それが槙山家の役目だということを忘れていた」
二人とも落ち着いた口調で話すのをみて、覚悟が出来ているのだと白花はホッとした。
――しかし、荒日佐彦がゆるりと首を横に振りながら告げた。
「槙山家の家長の代で、神職を務めるのは終わりだ」
「やはり、お怒りは解けませんか……」
勇が肩を落としながら呟いた。
「我が白花を妻として迎えたことで、槙山家との契約は切れたのだ」
「? それは一体どういうことでしょうか?」
勇が首を傾げるのはもっともだ。
それは白花にとっても不可解な言葉で、もしやと荒日佐彦に尋ねる。
「荒日佐彦様、私は槙山の血を引いてはいないのですか?」
「ああ、そうだ。――そこの宮司の血を引く」
「――えっ!?」
白花だけでなく、そこにいる全員が宮司に視線を向けた。
宮司は決意したのか、神妙な様子で佇んでいた。
「宮司様……貴方が? 私の本当の父……?」
「……御祭神様がそう仰るのであれば、そうなのでしょう」
宮司は静かな口調に答える。
「お前……! 儂を謀ったのか?」
勇蔵が怒りで顔を真っ赤にして、大声で宮司を責める。
「そうではございません。……私も御祭神様に言われるまでハッキリとわからなかったのです。流れ巫女であった鈴とこの村で出会ったのは、私が最初でした。酷く疲れ切った様子で足取りもおぼつかなく、今でも倒れそうなところを私が助けました。それから体調が戻って『恩返し』と神社の手伝いをしてくれて、最初で最後の恋と申しましょうか。いつのまにか私と鈴は、心を通わす仲になっていったのです」
「き、貴様……神職にあるまじきことだぞ!」
「神職でも結婚は許されております。貴方様もそうでしょう? しかしながら、何も受け継ぐものを持っていない私に、貴方様のように禁為だと騒ぐ者も出てくるだろうと、私はきっぱりと神職から離れ、鈴とこの村から去るつもりでおりました。……そこからは記憶にございましょう?」
急に責めるような声音になった宮司に、勇蔵はバツが悪そうな表情になり、顔ごと逸らす。