荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
「最後のお務めと、隣村の用事を済ませに一日留守をしている間、貴方様は神社にいた鈴を槙山家に浚って行きました。……私が何度も訪問して彼女の安否を尋ねても『知らぬ存じぬ』と言い続けて、それから十ヶ月経ったある日に『槙山家に腹違いの娘が生まれた』と聞き、駆けつけた私にようやく貴方様はお話しになりましたよね?『神社にいた流れ巫女に子を産ませた』と。『産後に出血が酷く亡くなった』と……!」

 堪えきれなくなったのか宮司は、怒りを乗せ勇蔵を責める。
涙を流しながら目を見開き、鬼気迫る姿だった。

「私と鈴は既に夫婦の契りを結んでおりましたが、妊娠の兆候はなかった。だから生まれた女児は勇蔵様のお子だと……。でも、『いや、あのとき妊娠の兆しが現れなかっただけでは?』とも思いました。……鈴の生んだ娘は『白髪・赤目』と聞いてこの先、辛い目に遭うのはわかっているのに、ここを去るわけにはまいりませんでした。鈴の娘を見守るためにずっとずっと……こうして宮司を務めて……ぁあ……」

 宮司はここまで一気に喋ると、激しい息づかいを整えるように呼吸を繰り返し、すすり泣きながら白花を見つめた。

「私の……鈴と私の娘だったのですね……私の、娘……っ」
 涙を流す、目の前にいる好々爺は私の本当の父――

「幼い頃からずっとずっと私のことを気に掛けて、お優しくしてくださって……いつも『この人が私の父だったらよかったのに』と思っていました……本当に私の父なんですね……」

「いきなさい。これからの前借りの分だから」と、荒日佐彦が白花の背中を押す。
「お父さん……!」

 白花は躊躇いなく宮司の元へ駆け寄り、老体を抱きしめた。
 宮司も娘と判明した白花を受け止め、涙を流しながら抱きしめる。
 白花にとって極めて近しい相手なのに、こうして温もりを経験したのは初めてで、それなのにとても懐かしく感じるのは血のせいなのだろう。

「白花……! これからは幸せになりなさい。私はずっとお前の幸せを祈ろう。神を祀る者として。神の元へ嫁いだお前の幸せを祈ろう」
「はい……ありがとう、お父さん……。私もお父さんがこの村で幸せに暮らしていけるよう、いつまでも念っていきます」
「はは……お前はもう御祭神様の妻。私の幸せだけでなく、ここの村含む一帯の安全と幸福を祈らねばならないよ?」
「いやだわ……それならお父さんだってそうでしょう?」

 泣き笑いしながら互いに言い合い、また笑って――そうして名残惜しそうに離れる。
 荒日佐彦の腕の中に戻った白花を、宮司は眩しそうに見つめた。
 一呼吸置いたところで荒日佐彦が勇に告げる。

「そういうことだ。お前の父には最後まで務めを果たすことを命じるが、お前は帝都に出なくてはならない。……そこの風変わりな坊ちゃんのお目付役としてな。あれはお前を頼りにしている。付いた方が槙山家の運が上がる。なにせ『サチ』が逃げてしまったからな。鷹司の『サチ』を分けてもらえ。あの家は随分と育てておる」

 少し離れた場所で手持ち無沙汰にしている慶悟を、みなが一斉に視線を向けた。
 彼は突然注目を浴びたので、驚きながらも愛想笑いをしている。

「……しかし、美月がいない今、鷹司家と縁はもう……」
 消沈している勇に慶悟が声を掛けた。
「僕と君の友情があるだろう? 僕はね、君のことを買っているんだ。父もそうだよ。何せ僕の暴走を止めることができる唯一の人間だからね。……冷静に助言してくれる君がいないとこれから先、困るんだ。色々と。だって僕は今回のことのように、周りが見えなくなってしまって君の妹を交換するなんて言ってしまう人間だから」

「慶悟……」
「頼むよ。一緒に鷹司家を盛り立ててくれ。勿論、見返りはする」

 気安く肩を叩いてくる慶悟に、勇は苦笑する。
「慶悟、君には本当に苦労させられる……」
「まぁ、勇が禿げないよう努力はするよ」

 軽口を叩く慶悟に勇はまた笑い、頷いた。





< 71 / 76 >

この作品をシェア

pagetop