荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる
「そうだ、先ほどアカリが怒っていた件な」
唐突に荒日佐彦が言ってきてアカリも便乗する。
「そーなんですよ! 酷くありません? 荒日佐彦様は言った人間共に罰を与えるべきです!」
鼻息荒く抗議をするアカリをみて、荒日佐彦は苦笑した。
「アカリ、私は怒っていないから」
白花がアカリを静めようと試みるも、再び沸騰した彼女を止めるのはなかなか難儀だ。
「いーえ! 夫である荒日佐彦様はもっと怒ってください! 妻である白花様が人間どもに揶揄されているのですよ?」
「私はいいから。そう言った姿なのは本当なのだし」
「白花様は優しすぎるのです!」
ますます怒りだしているアカリに荒日佐彦は「静まれ」と手を揺らし押さえる。
「俺もその話は耳にしている」
「――でしょう!? だったら……!」
「まあ、落ち着け。耳にしているが、アカリが怒るような悪気はないということだ。悪口ではない」
白花とアカリは首を傾げる。
「悪い意味で話しているのではないということだ。尊敬の念が籠もった言葉だと受け取って良い」
「はあ、あれが?」
アカリは納得いかずとまたぷんぷんし始めたが、白花が「夕餉の支度を手伝ってきて」と下がらせた。
アカリの姿が見えなくなって、白花と荒日佐彦は視線を合わせ苦笑し合う。
「アカリの沸点の低さには参ったな」
「ふふ、私の代わりに怒ってくれているのです」
荒日佐彦は上着を着直すと、白花の腰を寄せ縁側へ誘導する。
「『荒神様の嫁様は綺麗な白ウサギ』って村人たちに囁かれているって聞いて私、嬉しかったんです」
「『ウサギ』と呼ばれてもか?」
「だって村にいた頃、私は『汚れた白うさぎ』って呼ばれていたんですもの。少しは村人たちの間で意識が変わったんだと思います」
「確かに嫌悪感など滲め出てはいなかった。それどころか尊敬の念で呼んでいたからな」
「だから荒日佐彦様も怒らずにいたのでしょう?」
ああ、と荒日佐彦は頷くと白花を自分の腕の中へ寄せる。
「しかし、今の宮司が亡くなる頃には『妻はうさぎ』ではなく『白花という人』と認識を改めさせないとな。時代が過ぎると事実が変わっていく」
「それは大丈夫でしょう。私の父ですもの、きちんと記録に残して変えていくでしょう」
白花は、父であった宮司のことを信頼している。
そして猛省している父だと思っていた槙山勇蔵も、きっとこの辻結神社を盛り立ててくれるだろう。
……義母は、美月が醜い姿になって山の奥に消えたという話を聞いて、気力を喪失してしまった。
正座をしたまま微動だにせず、何を言っても反応せず、ただ家の中から連なる山々を見つめているだけになってしまったという。
義母は美月が全てだったのだろう、と白花は同じ母から生まれた勇のことを案じてしまう。
勇もそんな母を案じているようたがそれ以外いつもと同じ様子で、淡々と脱力している父と興奮している慶悟をあやしながら使用人たちに指示を出していた。
そして来年には勇は帝都に行き、慶悟の側付きとして鷹司家に仕えると決まった。
慶悟と会ったとき破天荒で我が儘な性格に内心驚いたが、勇なら手綱を操作できるだろう。
――美月は、清涼な山の精気に囲まれて大人しく過ごしているそうだ。
いずれは人の心を取り戻し、元の姿に戻れるだろう。
「ただ、それが人の生のうちに戻れるかはわからん」
と荒日佐彦は告げた。
全ては長い時間の一部として刻まれていく。
「荒日佐彦様。私、貴方にお話ししなくてはいけないことができました」
「うん? なんだ?」
白花は荒日佐彦の両手の平を自分の腹に当てて見せた。
そして――宮が揺れるほどの、荒日佐彦の喜ぶ声が響き渡ったのだ。
唐突に荒日佐彦が言ってきてアカリも便乗する。
「そーなんですよ! 酷くありません? 荒日佐彦様は言った人間共に罰を与えるべきです!」
鼻息荒く抗議をするアカリをみて、荒日佐彦は苦笑した。
「アカリ、私は怒っていないから」
白花がアカリを静めようと試みるも、再び沸騰した彼女を止めるのはなかなか難儀だ。
「いーえ! 夫である荒日佐彦様はもっと怒ってください! 妻である白花様が人間どもに揶揄されているのですよ?」
「私はいいから。そう言った姿なのは本当なのだし」
「白花様は優しすぎるのです!」
ますます怒りだしているアカリに荒日佐彦は「静まれ」と手を揺らし押さえる。
「俺もその話は耳にしている」
「――でしょう!? だったら……!」
「まあ、落ち着け。耳にしているが、アカリが怒るような悪気はないということだ。悪口ではない」
白花とアカリは首を傾げる。
「悪い意味で話しているのではないということだ。尊敬の念が籠もった言葉だと受け取って良い」
「はあ、あれが?」
アカリは納得いかずとまたぷんぷんし始めたが、白花が「夕餉の支度を手伝ってきて」と下がらせた。
アカリの姿が見えなくなって、白花と荒日佐彦は視線を合わせ苦笑し合う。
「アカリの沸点の低さには参ったな」
「ふふ、私の代わりに怒ってくれているのです」
荒日佐彦は上着を着直すと、白花の腰を寄せ縁側へ誘導する。
「『荒神様の嫁様は綺麗な白ウサギ』って村人たちに囁かれているって聞いて私、嬉しかったんです」
「『ウサギ』と呼ばれてもか?」
「だって村にいた頃、私は『汚れた白うさぎ』って呼ばれていたんですもの。少しは村人たちの間で意識が変わったんだと思います」
「確かに嫌悪感など滲め出てはいなかった。それどころか尊敬の念で呼んでいたからな」
「だから荒日佐彦様も怒らずにいたのでしょう?」
ああ、と荒日佐彦は頷くと白花を自分の腕の中へ寄せる。
「しかし、今の宮司が亡くなる頃には『妻はうさぎ』ではなく『白花という人』と認識を改めさせないとな。時代が過ぎると事実が変わっていく」
「それは大丈夫でしょう。私の父ですもの、きちんと記録に残して変えていくでしょう」
白花は、父であった宮司のことを信頼している。
そして猛省している父だと思っていた槙山勇蔵も、きっとこの辻結神社を盛り立ててくれるだろう。
……義母は、美月が醜い姿になって山の奥に消えたという話を聞いて、気力を喪失してしまった。
正座をしたまま微動だにせず、何を言っても反応せず、ただ家の中から連なる山々を見つめているだけになってしまったという。
義母は美月が全てだったのだろう、と白花は同じ母から生まれた勇のことを案じてしまう。
勇もそんな母を案じているようたがそれ以外いつもと同じ様子で、淡々と脱力している父と興奮している慶悟をあやしながら使用人たちに指示を出していた。
そして来年には勇は帝都に行き、慶悟の側付きとして鷹司家に仕えると決まった。
慶悟と会ったとき破天荒で我が儘な性格に内心驚いたが、勇なら手綱を操作できるだろう。
――美月は、清涼な山の精気に囲まれて大人しく過ごしているそうだ。
いずれは人の心を取り戻し、元の姿に戻れるだろう。
「ただ、それが人の生のうちに戻れるかはわからん」
と荒日佐彦は告げた。
全ては長い時間の一部として刻まれていく。
「荒日佐彦様。私、貴方にお話ししなくてはいけないことができました」
「うん? なんだ?」
白花は荒日佐彦の両手の平を自分の腹に当てて見せた。
そして――宮が揺れるほどの、荒日佐彦の喜ぶ声が響き渡ったのだ。