荒神の贄になりましたが花嫁として溺愛されています~『化け物白うさぎ』と呼ばれた乙女は神の最愛になる

◆ 御祭神の元へ

「なんと……お前一人なのか?」

 迎えに来た宮司が、うさぎ一人で正門の前で待っていることに驚いて、声を上げた。
 いつもは煌々と明かりが灯っている屋敷も今は正門と奥玄関、そして残っている使用人がいると思われる部屋にしか明かりが見えていない。

「今日、美月さんの婚約の儀があるとは聞いていたが……お前の嫁入り前には戻ってくるものかと思っていた」
「鷹司家で執り行うと話していたので、そのままお泊まりになるのではと思います……。慶悟様は鷹司家の跡取りです。きっと盛大に祝っておいででしょうから」

 うさぎの言葉に宮司は大きく肩を揺らした。
 この地域一帯を占める地主で、都心でも事業を興したために宮司の職に全うできなくなった先代の槙山家当主は、宮司から権宮司に降り、新たな宮司を呼んだのだ。
 それが現在の宮司である。

「神事に関わる権宮司でありながらなんという……いや、元は辻結神社の宮司であり、槙山家のご祭神であろうに。神の元に娘を送るという日に一人残らせて、誰も見送らないとは、なんという罰当たりが……今まで、こんなことなどなかっただろうに」

 困惑している宮司の顔を見る。もう老年で顔に刻まれた皺をますます深くしている。
 自分の嫁入りと美月の婚約の儀をわざと同じ日にしたのは義母と美月だろう。
 そしてその決定に父も兄も反対しなかった。
 家族でこの儀式を放棄したのは明白だ。

「宮司様、私はいいんです。もともと家族の一人とは思われておりませんでしたし、宮司様だけでもこうして見送ってくださってくれて、とても心強いです」
「うさぎ……」
 宮司は憐れむように名を呼ぶ。

「さあ、参りましょう。時間が迫っておいででしょう? 神様をお待たせさせてはいけませんし」
 うさぎは逆に宮司を励ますかのように、明るい声で促した。

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