飼育するはなし。

take 2

「きょうちゃん。」

「おきて。」

京介はフローリングの上で痛む体を身動ぎした。
窓の外はすっかり暗くなっていた。

「ひな、ご褒美。」

ひなみは本当に訳が分からないという顔で首を傾げる。

____すっとぼけ。

「お留守番、ちゃんとしたよ。ご褒美ちょうだい。」

ひなみは愛しいと言うかのように目を細め頬を紅潮させる。

「どうしたの、今日いつもと違う。」

そういって嬉しそうに微笑む。
___どきりとした。初めて、心から笑ったのだと感じた。

ほんの少し、もう少しだけ自分を意識してほしい気持ちに駆られ、彼女の頬に触れる。

「ひな。」

京介の真剣な声色にひなみは動揺したのか、ぽかんとした顔をして添えられた手の方に首を傾げる。

「愛して。」

添えられた手に熱と脈が伝わる。

「愛してるよ?」

心底嬉しそうに八重歯を覗かせる。
あまりの可愛さにめちゃくちゃにしたくなる、ぞくぞくと胸の中を這う衝動にどうにかなりそうだ。

憎らしくて愛おしい。

「だめ。たりない。」

___ずっと、我慢してきた。

毎日、毎日。繰り返す日常の中でどんどん欲深くなる。

「ちゃんと愛して。」

胸が苦しい。
彼女の愛と自分の中の愛はまるで違うようだった。
それがたまらなく苦しい。

親指で彼女の口唇に触れる、柔らかい。
京介は自身の唇を触れさせようと顔を近づける。

「どうしたの、きょうちゃん変。」

ひなみは京介の瞳をじっと見つめながら怪訝な表情で顔を逸らす。

なんで…。

「あ…きょうちゃん、ごめん。ごめんね。
そんな悲しい顔しないで?ごめんね。」

抱き寄せられ、優しく頭を撫でられる。

もっと触れてほしい。優しくされたい。愛を囁いてほしい。

悲しい顔をすればもっと触れてもらえるだろうか。

「きょうちゃん、きょうちゃん。」

繰り返しながら背中をさすられる。

彼女が珍しく必死になっていることに気付く。
少し、ひなのことがわかった気がした。

「ひな、ずっと一緒にいてね。」

振り絞るように、できる限り悲しげに囁く。

「…ん。一緒にいるから、だからそんな悲しそうにしないで。」

背中をさする手が止まり、ぎゅっと力が入る。
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