monogatary.comから転載モノ【丁L】
お題「お花見で隣になったら…」桜雲
嫌な写真だった。多分わたし以外には別に何の変哲もない花見の写真なのだろう。わたしが参加できなかったから? そんな理由ではない。曇り空でも決行できて喜ばしく思っているのは本心。
問題は、左端に映る男。男性陣はみんな後ろで立って、戯れ合っているのに。カレだけ前列の左端で、女の子の隣をキープしている。元々男女比に偏りのあるサークルで、その点に関して不平不満があったわけではないけれど。
カレってそういう人だから。
自信無さそうなことを言っておいて、高いプライドが見え隠れしている。その危うさに惹かれたといえば否定はしない。けれどその自信の無さは、異性からの承認で誤魔化すことにしたみたい。
多分いつもの調子で言い寄って、なんとなくわたしが釣れたから。だから付き合うことにして、それでもまだ異性からの承認を自信にしている小物っぽさがある。
それはそれでいい。その小物っぽさに惹かれたのだから。何もないわたしにも一人前の庇護欲というものがあるわけだ。
けれどこの花見の写真は嫌だった。やっぱりいつもの調子で後輩の女の子に自分から絡みにいって、向こうは先輩として慕ってくれる。それをモテると勘違いしちゃってるのかもね。
これをわたしが見てることにも無頓着でいたんでしょう?
嫉妬させたがっているの? だとしたらわたしのことを分からなすぎる。わたしは貴方がそういう人だって分かっている。カノジョを一人得るだけじゃ、その承認欲求も自信も満たせないんでしょ。
「は〜」
「は〜」
溜息は重なって聞えた。咄嗟に2人分ほど空いた隣を向くと、わたしと同じようにスマートフォンを片手にベンチに座る男性がいた。年の頃も同じくらいだから、教授ではなくて学生だ。
相手もまた、二重になった溜息に気付いたようで、わたしたちは顔を見合わせた。後ろに生えている桜の木が、薄紅色の雲を彼にかけて、能天気な苦悩の図というわけだ。
そう見てしまったらそう見えて、シュールだった。笑うのを噛み殺す。
「すみません」
「い、いいえ。こちらこそ……」
笑ったのが伝わったのか。気拙くなってわたしはまたグループ単位で送られてきた忌々しい画像に目を落とす。
「あ、あの……」
先程の人から話しかけられて顔を上げた。
「このサークルの、人ですよね?」
迷いの末、といった調子だった。躊躇いを感じる。わたしは魅せられスマートフォンの画面を覗いた。同じ写真が写っている。
「ぼくも幽霊部員なんですけど、このサークルで……この子と付き合ってるんですけど……」
よく磨かれた爪が、わたしのカレシの隣で笑う女の子を叩く。
「この人って、どんな人なんですか……?」
それからその爪がわたしのカレシを叩く。
「あ、あの……束縛とかストーカーとか、そんなんじゃなくて……」
ベンチの後ろの桜から、鱗みたいな淡すぎる紅色が散って彼の肩に落ちてきた。気を取られたその一瞬で彼が、わたしの画面に目を落としたことに気付く。
「わたしのカレシだけれど」
彼は画面から顔を上げた。不安げな目と視線が搗ち合う。時間が止まったかと思った。けれど剥がれ落ちてきているみたいな花びらがそれを否定している。
ああ、同じ人だと思った。けれど正反対の人だとも思った。
「あなたは、赦せますか、これ……」
彼の声は抑揚を失った。もう赦すとか赦せないとか、失くなった声。
「お互い相手がいるのに、酷いよね」
何がわたしの心に靄をかけていたのか、覚えているし、その始末をしようというときに感情のほうを忘れてしまった。
***
2024.4.13
で、オチは?
問題は、左端に映る男。男性陣はみんな後ろで立って、戯れ合っているのに。カレだけ前列の左端で、女の子の隣をキープしている。元々男女比に偏りのあるサークルで、その点に関して不平不満があったわけではないけれど。
カレってそういう人だから。
自信無さそうなことを言っておいて、高いプライドが見え隠れしている。その危うさに惹かれたといえば否定はしない。けれどその自信の無さは、異性からの承認で誤魔化すことにしたみたい。
多分いつもの調子で言い寄って、なんとなくわたしが釣れたから。だから付き合うことにして、それでもまだ異性からの承認を自信にしている小物っぽさがある。
それはそれでいい。その小物っぽさに惹かれたのだから。何もないわたしにも一人前の庇護欲というものがあるわけだ。
けれどこの花見の写真は嫌だった。やっぱりいつもの調子で後輩の女の子に自分から絡みにいって、向こうは先輩として慕ってくれる。それをモテると勘違いしちゃってるのかもね。
これをわたしが見てることにも無頓着でいたんでしょう?
嫉妬させたがっているの? だとしたらわたしのことを分からなすぎる。わたしは貴方がそういう人だって分かっている。カノジョを一人得るだけじゃ、その承認欲求も自信も満たせないんでしょ。
「は〜」
「は〜」
溜息は重なって聞えた。咄嗟に2人分ほど空いた隣を向くと、わたしと同じようにスマートフォンを片手にベンチに座る男性がいた。年の頃も同じくらいだから、教授ではなくて学生だ。
相手もまた、二重になった溜息に気付いたようで、わたしたちは顔を見合わせた。後ろに生えている桜の木が、薄紅色の雲を彼にかけて、能天気な苦悩の図というわけだ。
そう見てしまったらそう見えて、シュールだった。笑うのを噛み殺す。
「すみません」
「い、いいえ。こちらこそ……」
笑ったのが伝わったのか。気拙くなってわたしはまたグループ単位で送られてきた忌々しい画像に目を落とす。
「あ、あの……」
先程の人から話しかけられて顔を上げた。
「このサークルの、人ですよね?」
迷いの末、といった調子だった。躊躇いを感じる。わたしは魅せられスマートフォンの画面を覗いた。同じ写真が写っている。
「ぼくも幽霊部員なんですけど、このサークルで……この子と付き合ってるんですけど……」
よく磨かれた爪が、わたしのカレシの隣で笑う女の子を叩く。
「この人って、どんな人なんですか……?」
それからその爪がわたしのカレシを叩く。
「あ、あの……束縛とかストーカーとか、そんなんじゃなくて……」
ベンチの後ろの桜から、鱗みたいな淡すぎる紅色が散って彼の肩に落ちてきた。気を取られたその一瞬で彼が、わたしの画面に目を落としたことに気付く。
「わたしのカレシだけれど」
彼は画面から顔を上げた。不安げな目と視線が搗ち合う。時間が止まったかと思った。けれど剥がれ落ちてきているみたいな花びらがそれを否定している。
ああ、同じ人だと思った。けれど正反対の人だとも思った。
「あなたは、赦せますか、これ……」
彼の声は抑揚を失った。もう赦すとか赦せないとか、失くなった声。
「お互い相手がいるのに、酷いよね」
何がわたしの心に靄をかけていたのか、覚えているし、その始末をしようというときに感情のほうを忘れてしまった。
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2024.4.13
で、オチは?