離縁前提の結婚ですが、冷徹上司に甘く不埒に愛でられています〜after storyハネムーン編〜
 たぶん目元のメイクを心配してくれているのだろうが、言葉とは裏腹、眼鏡の奥の涼やかな瞳が優しく弧を描いている。
 
「だって……そのくらい、嬉しいんです」

 私の涙声を聞いて、彼が小さくわらう。 
 
 普通の花嫁なら、実家を離れるのが淋しいとか、そんな感慨深い気持ちになるのだろうけれど私は違う。
 すでに〝偽装結婚〟という結婚生活のなかで、ようやくずっと好きだった人と気持ちの通じ合えて、念願のこの時を迎えられるんだ。
 嬉しくて、幸せで泣けてしまうのは仕方ない。
 
 溢れる涙を拭ったあと、智秋さんは身を屈め、濡れた瞳を覗き込んでくる。
 
「……俺も、嬉しいですけどね。言葉に言い表せないくらいに」
 
 そして、小さく嬉しそうにそう囁いて、震える私の唇に誓いのキスをしたのだった。
 ようやく交わせた誓いのキスは、いつもしているキスよりも塩辛い、優しい涙の味がした――  

 
 ◇

 
 その後、隣接する洋館で、私たちは小規模なウエディングパーティーをした。
 お付き合いのある方たちを招いたとても小さなパーティーだったが、終始和やかな空気を見せていた。 
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