離縁前提の結婚ですが、冷徹上司に甘く不埒に愛でられています〜after storyハネムーン編〜
 この様子だと、ひとりだと迷ってしまいそうだ。言語が通じるし、カウンターにいけばアナウンスをして相手を呼び出してもらえるだろう。必要なら電話だって借りられるはずだ。
 
 女性に提案していると「桜さん?」と隣に大きな影が並んだ。
 智秋さんが戻ってきた。
 彼は何も言わずに、一緒にいる困り顔の女性を見て、それからもの言いたげな私を見て、しようとしていることを察したらしい。

「……あなたはどこにいても変わりませんね」

 ため息交じりの声。たぶん、職業病だと言いたいのだろう。でも私を見つめる眼鏡の奥の瞳は、とても柔らかだ。
 

   ◇

  
「迷惑かけてごめんなさい。恥ずかしいのですが……あまりひとりで外を出歩いたりしないから、知らない土地ではぐれてどうしたらいいか分からなくて……とても助かります」
  
 女性をセンター内のインフォメーションカウンターまで送り届けていると、彼女は申し訳なさそうに自分のことを搔い摘んだ。
 
 思った通り……女性はよき家柄のお嬢さまでひとりでの行動には、慣れていないようだ。まだ大学を出たばかりで、歳は二十代前半だと言う。
 
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