離縁前提の結婚ですが、冷徹上司に甘く不埒に愛でられています〜after storyハネムーン編〜
 なんだ? と思って視線を落とせば、子供が智秋さんの足にぶつかって尻もちをつくところだった。
 四歳くらいの男の子だろうか。クルクルした巻き毛と青い瞳がとても可愛い。

「だいじょうぶ――」

 智秋さんが子供と触れ合う場面は見たことがなかった。咄嗟に自分が声をかけたほうがいいかと思って膝を折るが、
 だけど私が声をかけるよりも早く智秋さんがしゃがみこんで、今にも泣きそうな男の子をそっと抱き起した。
 
「大丈夫ですか? 痛いところは?」
 
 目線を合わせ、英語で優しく尋ねる。
 すると、男の子は申し訳なさそうに目をうるうるさせたあと「ないよ、ごめんね、ぶつかって」と消えそうな声で謝った。
 
「船上は危ないので、しっかり手を繋いでいてください」
 
 智秋さんが優しく注意すると、すぐに了承し、迎えに来たお父さんに手を繋がれ戻っていった。
 そのやり取りを見つめていた私は、心の奥が温かくときめいた。

「どうしました?」

 私の視線に気づいた智秋さんが首を傾げる。

「……怪我がなくて、よかったですね」

 柔らかく笑ってみせると、智秋さんは「ですね」と親子の姿を見て頷く。

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