私のかけがえのない3分
「ちょっと遥介先輩。私、味噌派だって言ったじゃないですか」
「細かいこと言うなよ、麺伸びるぞ」
「早すぎ! まだ一分くらいしか経ってないってば」
 
 皐月が止める手を、遥介は嬉しそうに振り払う。
 
「なんでまた俺の奢りなんだよ」
「だってほら、先輩は個人メドレー2位。私は完泳しました」
「200バッタは優勝したじゃんか」
「ダメです。勝負は勝負なんで」
「真面目かよ」
 
 麺を啜る遥介。だが麺には、まだ若干の硬さが残る。流石の遥介も一度箸を置いた。
 
「……味噌がよかった」
「しつこいな」
「譲ってくださいよ、今日くらい」
「嫌だよ。それ全部食ってまだ食えるんなら、買ってやる」
「なんですか、それ」
 
 いつものコンビニのイートイン。皐月がきっちり3分後に蓋を開ければ、遥介は鞄から出したそれをテーブルに置いた。
 
「ほらよ、やる」
 
 それは味噌味のカップ麺。
 
「いや、もうこっちにお湯入れて今食べるのに! タイミングどうなって——え、これなんですか」
 
 皐月は蓋の上にテープで貼られたメモに手を伸ばした。
 
「だー、今じゃなくて! 帰ってから見ろって」
「はあ?」
「今はこっち食えよ。今度こそ麺伸びるぞ」
 
 味噌味のカップ麺を横目に、皐月は頬を赤らめながら麺を啜った。裏っかえしで貼ってあったそのメモには
 
 “付き合って”
 
 そう文字が透けていたからだった。


 了
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