乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
『・・・宮子(みやこ)ッッ!!』

いつもあたしを臼井(うすい)って苗字で呼ぶ(さかき)が、下の名前を叫んだ。見せたこともないような迫力で。

次の瞬間。あたしはものすごい衝撃といっしょに薙ぎ倒された。

力いっぱい榊に抱き竦められて、痛いより苦しくて、圧し潰されて苦しくて、苦しくて。

『榊ぃ・・・っっ』

息も絶え絶えだった。

何が起こったのかわかんなかった。

音がした。()ぜたみたいな音が。

相澤(あいざわ)さんの怖い声が聞こえた。

(じん)兄の大きい声が響いた。

榊は血だらけで、橘をあしらった桜色のあたしの着物も真っ赤で。

(まこと)とあたしの一生に一度だけの、結婚祝いの披露宴は一変して戦場になった。

数人がかりで運ばれてく榊を追いかけようとして、仁兄の腕の中で必死にもがいた。

真が絶叫した。

(ふじ)さんの顔が近づいた気もした。

ふっと意識が遠のいた。





リアルな夢を見てた。泣き叫んだ自分の悲鳴が耳の奥に残るくらいリアルな。

ぼんやり目が醒めて寝返りを打つと、あたしを見下ろしてたのは、ベッドの縁に腰かけた()っちゃんだった。

「・・・宮子お嬢」

「あれ・・・?」

天井と壁の色目で、実家に残したままの自分の部屋なのはすぐわかった。なんでここで寝てたのか記憶が曖昧。頭の芯がちょっと気怠い。瞼が重たい。

「どこか痛むところはありませんか」

「?」

「気分は?」

大きな掌があたしの頭を優しく撫でる。これ好き、いい子いい子されるの。

「哲っちゃんがいてシアワセ?」

遠慮なく甘ったれてみた。
< 1 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop