乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
ここはそんなに大きい病院じゃないから、面会時間は11時半から17時半まで。ほんとは自分の車で好きに来れたらいいんだけど、哲っちゃんが許してくれない。

当たり前だよ、高津さんの時とは次元がちがう。それも分かんないドアホだったら、榊にまた呻り飛ばされちゃう。

送迎係と時間は日によってまちまちだ。迎えはだいたい30分前にスマホにメッセージが届くから、支度して病室で待ってる。今日は珍しく面会終了間際だった。

「待たせて済まねぇなお嬢」

「え?!甲斐さん?」

扉がスライドして姿を見せたのが、うちの若い衆とはオーラが段違いな三つ揃いのイケメンで、思わず瞬き。

「榊の顔を見に寄らせてもらったついでだ」

サイドを刈り上げたツーブロックのヘアスタイルで、男っぽい色気のあるこの人は、甲斐(かい)辰巳(たつみ)さん。木崎組の組長代理。

つまり一ツ橋本家の若頭代理と木崎組組長、二足のわらじを履いた仁兄が、自分の組を任せてるのが甲斐さんだった。

仁兄よりひとつ上の先輩で、真も『辰兄』って慕ってる。榊のことも弟分みたいに可愛がってくれてる。迎え(アシ)にできるよーな人じゃないのに頼んだのダレ?!

「いつまでも寝ぼけてるんじゃねぇぞ榊」

ベッド脇に立って目を細めた甲斐さんが低く呟いた。身内は、甘やかして優しく『ガンバレ』とか言わない。お尻ひっぱたいて叩き起こすのが流儀。

「この俺に何度も足を運ばせるなよ?」

ほんとだよ。
ぜーんぶ貸しにするからね?
甲斐さんの分も相澤さんの分も、
あたしのも、真のも仁兄のもぜーんぶ。

返さなかったら。
地獄まで追いかけてくんだからね?



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