乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
その晩も、西沢さんに送られて真が戻ったのは夜中の2時を過ぎた頃。哲っちゃん家でお夕飯とお風呂を済ませたあたしは、離れの部屋で寝落ちしながら待ってた。

「・・・ただいま宮子」

「ん・・・、おかえりぃ」

くっついた瞼をこすりこすり、ベッドから体を起こそうとすると、布団の数十倍は重たい男がのしかかってきてそのまま沈む。

「あー・・・宮子のにおい、おちつく・・・」

「よしよし。・・・お疲れさま」

事務所に詰めっきりで煙草の匂いが染みついた、プラチナアッシュの髪をやさしく撫でてあげる。

叶うなら。先頭切って、自分の足で、襲撃犯の裏にいる卑怯者(クズ)を引きずり出したいのにね。仁兄に託して、自分ができることを毎日がむしゃらで。

ちょっとでも弱音を吐いたら崩れちゃいそうで、立ち止まれないんだと思う。あたしもそうだから。不安を打ち消したくて、なにかしてないと気が狂いそうで、榊のそばにいるんだと思う。

「・・・俊哉は?」

「悪くはなってない、・・・みたい」

「そっか」

「相澤さんと甲斐さんが来てくれてねぇ」

「そっか・・・」

「甲斐さんに送ってもらっちゃったから、真からもお礼・・・」

言っといてね。

寝息が聞こえた。これぜったい覚えてないやつだ。

とりあえず服をまるっと脱がせると、お湯で絞ったタオルで上から下まで拭いて、布団かぶせて。あたしも隣りに潜りこんだ。

明日はきっと目を覚ますよ。

真の素肌に顔を寄せる。

ひとりで頑張んないでよ。

あたしの前じゃ泣かない真を思うと辛かった。無性にユキちゃんに会いたかった。・・・亞莉栖(アリス)が恋しくてしょうがなかった。



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