乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
1-2
「俊哉が起きたら呼んで」

出かける前の口グセ。榊が運び込まれたあの日以来、真は一度も病院に足を向けてない。

チューブと機械につながった親友の姿なんか見てられない、とかじゃなく。起きるに決まってる・・・って願かけてる。気がした。

真には真の思いがある。正解も間違いもないんだから、黙ってつらぬかせてあげるのが(おんな)なの。

言葉にしない気持ちをキスに込めてダンナさまを送り出すと、瑤子ママと分担して掃除洗濯を片付ける。それから哲っちゃんに送迎の手配をお願いするのが日課になった。

「宮子お嬢、たまには昼に付き合ってもらえませんかね。・・・そのあとで一緒に榊の顔を見に寄りますんで」

「哲っちゃんの誘いを断る女なんていないってば!」

わざと冗談めかして。ふさいだ顔すれば余計な気を遣わせる。

まさかあたしが標的にされるなんて、まさか身内に裏切られるなんて、一ツ橋組そのものに(なた)を振り下ろされたようなものだった。ほんとは哲っちゃんだってあたしに構うより、他にやることあるはずなのに。

おじいちゃんは血圧上がっちゃうし、あのお父さんが鬼の形相で、招集した幹部を恫喝(どうかつ)したって仁兄から聞いた。

あたしだけじゃない。みんなが傷を負った、見えない血の涙を流した。

あたしだけじゃない。
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