乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
ランチの誘いだったから、てっきりお蕎麦屋あたりを想像してたら、着いたのは一見さんお断りな料亭『花爛(からん)』。言ってくれたら普段着はやめといたのにぃ。

「俺には十分可愛いがな。・・・不満か?」

哲っちゃんに甘く囁かれると、大抵のコトがどーでもよくなる。

専属運転手の及川(おいかわ)さんが後ろに回り、あたしの方からドアを開けてくれた。

「どうぞ宮子お嬢」

「ありがとうございます」

哲っちゃんよりちょっと若いくらい。黒スーツもワイシャツもシワひとつなくて、若頭の側近ともなるとさすがだなぁって、いつも感心する。

格子戸をくぐれば手入れの行き届いた新緑の紅葉の下で、青みがった白い紫陽花が涼しげに。もうじき五月もおわりかけ。だけどなんだか季節に置いてかれてるみたいな。自分だけ時間が進んでない、みたいな。

若女将がうやうやしく案内してくれたのは、よく通される個室とは別のお座敷だった。優美な仕草で障子戸の引き手に指をかけ、微笑みながら。

「お連れ様がお待ちでございます」

お連れさま?

哲っちゃんに訊き返す前に戸が横滑りし、座卓の脇に立ってたのが誰だか分かった途端。あたしの足は勝手に前へ踏み出してた。

「ユキちゃんっっ」

白いシャツに細身のジーンズ履いた、見た目は清涼系お兄さんに思いっきり飛びつく。
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