乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「チヨちゃんもマコトちゃんも、ぜんぜん亞莉栖(おみせ)に顔出してくれないから、寂しくて会いにきちゃったわ」

「あたしもっ、ユキちゃんに会いたかったぁ・・・!」

哲っちゃんが会わせてくれたのか、どっちなのか。悪戯っぽいコケティッシュな女言葉に、色んなものが一気に緩んで、ほどけた。泣くつもりなんてなかったのに、子供みたいに胸にすがってた。

「ユキちゃん、ユキちゃん、榊が目を醒まさないのっ。あたしが呼んでもダメなんだよ、ねぇどうしようっ。このまま起きなかったら、あたしはどうすればいいっっ?!」

押し込めて押し込めて、隠してきた弱気が膨れあがってほとばしった。

いつもいつもユキちゃんにだけはどんなことも打ち明けられた。真や哲っちゃんの前じゃ死んでも曝け出せない、情けない自分を我慢しなくてよかった。

「なんで、こんなことになっちゃうのっ?なんで?あたしがいるから?!だから真も榊も・・・!!」

「違うわチヨちゃん、二人ともいちばん大事なものを守りたかっただけ。それだけなのよ」

あたしをきゅっと抱き締めたユキちゃんの声が、頭の上から穏やかに広がる。

「チヨちゃんは真っ暗い闇に射す光だもの。アタシも哲司(てつじ)さんも、チヨちゃんがいない世界なんてきっと、生きてないのと変わらないわねぇ」

雪緒(ゆきお)の言うとおりだ。・・・お嬢が恨む相手はここにはいやしねぇさ」

頭を撫でてくれてるのは哲っちゃんの掌。

あったかい。ずっと雨ざらしだった胸の中が凪いでく。優しいふたりに包まれてじんわり温もる。
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