乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
「それは男冥利に尽きますがね」

体を起こそうとした肌襦袢姿のあたしに手を貸しながら、哲っちゃんは淡く笑んで。

それにしても、なんでこのシチュエーション??寝起きのドッキリ?サプライズ?

「真が頼んだの?あたしを起こしてこいって。寝顔は恥ずかしいから見せたくなかったのにぃ~」

「昔は添い寝した仲でしょう」

言い方!子供のときね?お昼寝とかね?やだもー、照れる。

「ねぇ哲っちゃん、あたしもしかして酔っ払って寝ちゃった?!みんなに勧められて、けっこう呑んじゃったしねぇ。あっ真は?真のほうがすっごい呑まされてたもん、大丈夫?死んでない??」

「・・・真は何ともありませんよ」

「ならよかったぁ。そうだ片付け!瑤子(ようこ)ママとおばあちゃん、手伝ってこないとっ」

離れのゲストハウスに招待したのは組の身内だけとは言え、本家の娘の結婚祝いともなると100人近かったんじゃないかな。食器洗いだけだって相当な量だし。

「お嬢」

慌ててベッドから下りようとしたあたしの手が掴まり、視線を傾げる。

「・・・宮子お嬢。大事な話があるんですがね」

哲っちゃんが眼差しを細めた。

「真はしばらく戻りませんよ」

「どこ行ったの?」

「思い出せ」

なにを?

「襲撃されて榊がお嬢の弾除けになった。松田医師に診てもらってるが意識不明だ。・・・俺のお嬢は、目ぇ逸らして逃げるような女だったかい」

シュウゲキサレテ?

悪夢のフラッシュバック。
頭が真っ白。
目の前が真っ赤。
ちがうよ。
あれは夢だもん。

頭の天辺から爪先、血の一滴まで否定する。
うそだよ。
うそだよ。

ねぇ榊。
あんたはどこにも行かないよね?
ずっと一緒にいるよね?
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