乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
トーンを上げて安心させるように。希望的観測を混ぜ込んで。

哲っちゃんが首を縦に振ってくれるまで旅行はお預けになる。一年以内だったらギリギリ『新婚』かな。ちょっとくらい過ぎてもいいんだけどな。・・・行けたらいいな。

「ごめん黙ってて。身内の犯人捜しになっちゃったから真も大変で、紗江になんて言えばいいか分かんなくてさ。また心配させて泣かせるなんて、・・・できなくてさ」

言ってるうちに鼻声に変わって、涙がぽろっと零れた。ふいに込み上げた。

「ほんとに死ななくてよかった・・・っっ。榊がいなくなったらあたし、どうしていいかっ」

『・・・宮子を置いてけるわけないでしょ?だから頑張ってがんばって、戻ってきたんでしょ?・・・ほんと、榊クンらし・・・』

詰まらせる声も湿ってた。

『でもあたしと、あたしの大事な親友を泣かせた罪は重いからね。首洗って待ってなさいって言っといて』

小さく鼻をすすりながら、ぬるい慰めは言わないとこがやっぱり紗江。

『宮子達がいる世界がどんなとこなのか、あたしには分かんないわよ。だからって死んでも当たり前なんて、ないからね?幸せに生きて当たり前なんだからね』

空耳が聴こえた。剛速球のストレートがミットのど真ん中に命中したみたいな音。幸せで当たり前って言葉が細胞を震わせた音。
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