乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~
去年の誕生会はそれこそ、天国から地獄だったのをしみじみ思いつつ、甘くてくすぐったい真のキスで始まった誕生日の朝。夜は夜で、家族がささやかにお祝いしてくれるらしかった。

紗江は愛あるスタンプメッセージを送ってくれたし、織江さんからは、椿ちゃんと雅ちゃんが可愛くバースデーソングを歌ってくれてる動画が。

榊も一言くらい寄越すかと思ったけど、うんまあ、そーいうタイプじゃないのはよーく知ってる。

実家の玄関には、フロント企業の名前であたしに宛てた、胡蝶蘭の鉢が綺麗に並んだ。紅い薔薇の花束はシノブさん、由里子さんからライラックのブーケ。バラは六月生まれの誕生花、ライラックは十二日の誕生花だった。

相澤さんからはビタミンカラーの、今までもらったことがないくらい色とりどりな花束が届いて。伝わってきた温かい気遣いに胸がいっぱいになった。

榊が今ここにいてくれたら手放しで喜んで、はしゃげたのかな。・・・とも思う。見えない棘がチクンと肌を刺す。

相変わらず面会を拒否られてるから、回復具合は人づてにしか聞いてない。真は本人と電話じゃ話してるみたいだから、心配もしてない。

でもねぇ!あたしだけ仲間はずれって寂しいじゃない。

いつものぶっきら棒で『・・・おう』って帰ってきたら、『待ちくたびれた!』って文句言う権利あるよね?

早く帰ってくればいいのに。
早く帰ってきてよ。
ねぇ榊。
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